抗がん剤治療のメカニズム

がん細胞は、通常の細胞とは異なり、無限に増殖を続ける特徴を持っています。
通常、体の細胞は一定回数の分裂を経てアポトーシス(細胞の自然死)により取り除かれますが、がん細胞はこの制御を逃れ、体内で急速に増えてしまいます。
この異常な増殖は、細胞の遺伝子に生じる変異が原因で、特にがんを促進する『がん遺伝子』や、抑える働きを持つ『がん抑制遺伝子』による制御が失われているため、増殖が止まらなくなるのです。
抗がん剤は、この無秩序な増殖を抑えるための薬です。
がん細胞に対して多様な方法で攻撃を仕掛ける抗がん剤には、DNAを直接攻撃して分裂を妨げる「アルキル化剤」、エネルギー供給を断つ「代謝拮抗薬」、細胞分裂の速度を落とす「抗腫瘍抗生物質」、分裂の足場を崩す「植物アルカロイド」など、さまざまなタイプがあります。
こうした抗がん剤を組み合わせることで、がん細胞の逃げ道を塞ぎ、治療効果を最大限に引き出すことが可能です。
さらに近年では、がん細胞の特定の分子や遺伝子異常をターゲットにした分子標的療法や、患者の免疫機能を利用した免疫療法が登場し、がん治療の選択肢が一層広がっています。
特に、PD-1阻害剤を用いた免疫療法は、がん治療における大きな進展として注目されています。
PD-1阻害剤は、がん細胞が免疫の攻撃を回避する仕組みをブロックし、患者の免疫細胞ががんを直接攻撃できるようにする薬です。
この治療法は、日本の本庶佑教授の発見を基に2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
この発見により、従来の治療が難しかったケースに新たな治療の可能性が広がりつつあります。