「物理ボタンの復活」とその理由
物理ボタンの歴史について研究しているインディアナ大学ブルーミントン校(Indiana University Bloomington)のレイチェル・プロトニック氏は、タッチスクリーンと物理ボタンについて、次のように語っています。
「タッチスクリーンに対する熱が高まり、突然あらゆるものがタッチスクリーンになりました。
しかし、時が経つにつれて、人々はタッチスクリーンのデメリットに気づき始めました。
タッチスクリーンが不便なインターフェースだと感じているわけではありません。
ただ人々はタッチスクリーンの利点を知った上で、物理ボタンの代替にはなり得ないと気づいたのです。
なぜなら、物理ボタンは触って感じることができ、ボタンの位置を常に目で見る必要がないからです。
実際、タッチスクリーンが普及しても、物理ボタンに置き換わっていないインターフェースは数多く存在します。
例えば、ビデオゲームをプレイするゲーマーは、スクリーンに集中するため、物理ボタンの付いたコントローラーを好みます。
またボタンが復活しているケースも数多くあります。
車のダッシュボードでは、様々なボタンやレバーが一度、タッチスクリーンになりました。
しかし私たちは、運転中の操作は、タッチスクリーンよりも従来の物理ボタンやレバーの方が容易かつ安全であることに気づきました。
その結果、物理的なインターフェースが再び採用されるようになっています。
実際、私たちはタッチスクリーンを操作する時、必ずタッチスクリーンを見なければいけません。
視線を別の方向に向けている状況では、操作できないか、誤操作を覚悟しなければいけません。
また、視覚障がい者たちはタッチスクリーンの扱いを難しく感じており、このこともタッチスクリーンが視覚に頼ったインターフェースであることを示しています。
こうしたインターフェースの特徴は、特にミスが許されない場面でタッチスクリーンよりも物理ボタンが好まれる理由を明らかにしています。
タッチスクリーンでハンドルやアクセル・ブレーキを操作したい人がいないのも同じ理由でしょう。
さらにプロトニック氏は、「人々がスクリーンを見ることに疲れていることもボタンの復活に関係している」と話します。
私たちは昼も夜もデジタル機器を利用し、1日に何時間もスクリーンを見たりスクロールしたりして疲れています。
そんな現代の私たちは、触覚に頼って操作ができる物理ボタンを求め、その存在を心地よく感じてしまうのです。
タッチスクリーンを世界に広めたiPhone でさえ、その最新モデルであるiPhone 16では2つの新しいボタンを追加しています。
確かに現代では、「物理ボタンの復活」が始まっています。
しかしこの現象が、タッチスクリーンを終焉へと追い込むことはないでしょう。
どちらの利点も十分に理解できた今だからこそ、それぞれのインターフェースが得意な分野で活用されていくだけなのです。