光が光の影を作る理論的説明
どうやってレーザー光線が光を遮り影を落としたのか?
先にも述べたように、光は自身が通過する媒体を仲介にすることで、別の光と相互作用を起こすことができます。
ただほとんどの媒体は、レーザー強度が高いと光の吸収を起こして飽和し透明体として働いてしまい、背景の光源よりもレーザー部分が明るく見える「光漂白」と言われる現象が発生してしまいます。
通常の媒体内部で強いレーザーで光源を放っても、周りの光源を遮るどころか効率よく光が伝わってしまい逆に「光って」見えてしまうわけです。
より簡単に言えば「光の前に光を通しても、まぶしくなるだけ」と言えるでしょう。
これでは影を作るどころではありません。
(※ライブステージでレーザーの通り道が見えるのは空気中の微粒子による光の散乱が原因であり、光漂白とは別の現象です。ただレーザーの通り道が「明るくなる」という点については同様だと言えます。)
光で光を遮りより暗い場所「影」を作るには、光漂白を起こさない特別な媒体が必要にります。
そこで研究者たちは宝石としても有名なルビーに目をつけました。
ルビーはレーザーの研究ではよく使われる材料であり、通常の媒体とは異なる奇妙な性質を持つことが知られていました。
実験ではこのルビーに対して2本のレーザー(青と緑)の出力を慎重に調節しつつ直行するように照射されました。
するとレーザーが交差する部分ではルビー内部の電子のエネルギー状態が激しく変動し、緑色のレーザーでエネルギーを与えられた電子は、青色のレーザーの光をより効率良く吸収できる現象が起こりました。
これは、ルビーの特殊なエネルギー構造と光の相互作用によって生まれる現象で、光が光の影を作る仕組みの基礎理論となります。
また生じた影の濃さを測定したところ、影のコントラストは最大で22%であり、これは晴れた日の木の陰のコントラストの値に匹敵します。
最後に研究者たちはこの結果がレーザーによる「影」と呼んでいいかを判断するために、影について以下の6つの条件を規定しました。
1:大規模な効果であること(巨視的であること)
2:肉眼で見ることができること
3:実際に物体が光を遮っていること
4:影の形が物体の形状を反映していること
5:物体の位置が動くと影も連動して動くこと
6:影が後ろにあるありふれたスクリーンの上で動くこと
そして今回の実験結果はこの6つを全て満たすとして「レーザーが光を遮り影を作ったと言える」と結論しました。
光はそれを通す媒体とは切っても切れない関係にあり、それは影も同じというわけです。
研究者たちは「この実験は影とは何かという私たちの理解を再定義するもので、適切な条件下ではレーザービームは影を落とすことができる」また「影を知ることは光を知ることでもある」と述べています。
今回の研究結果は将来的に、光で光を制御する仕組みを作る上で基礎となるでしょう。