オオカミが「受粉の媒介」をしている初の証拠かも
オオカミが食べていたのは、現地に自生する「エチオピアン・レッドホットポーカー(学名:Kniphofia foliosa)」と呼ばれるシャグマユリ属の花蜜です。
この花は毎年6〜11月に開花期を迎え、地上からまっすぐ伸びた茎の先端に小さな筒状の花を穂状にたくさん咲かします。
開花期にはそれぞれの花から大量の蜜を分泌し、昆虫や小鳥を引き寄せることが知られていました。
研究主任の一人であるクラウディオ・シレロ(Claudio Sillero)氏もこの花の存在については以前から認知しています。
「私が最初にエチオピアン・レッドホットポーカーの密に気づいたのは、現地のベール山脈で羊飼いの子供たちが花を舐めているのを見たときでした。
それを見て私もすぐに舐めてみました。蜜はとても心地よい甘さでした」
しかしエチオピアオオカミが昆虫や小鳥、そして子供たちと同じように蜜の味を楽しんでいるとは思ってもいませんでした。
調査期間中、チームはエチオピアオオカミが頻繁に花を訪れて、舌でペロペロと蜜を舐めとっている様子を記録しました。
蜜を舐める時間は1つにつき約3〜15秒であり、多いときには1頭で30箇所もの花を渡り歩いて、蜜を食べていたのです。
さらに蜜を食べるのは大人のオオカミだけではなく、子供たちも親や他の群れのメンバーについていっていました。
このことから花蜜を食べる彼らの行動は、大人から子供へと伝えられる学習行動であると考えられます。
さらに重要なポイントとして、オオカミの鼻先や口周りに大量の花粉が付着していることが指摘できます。
オオカミたちは花粉をつけたまま別の花へと移動していたことから、花の受粉を媒介している可能性が非常に高いのです。
実際にオオカミによって受粉が成立していることが確認されたわけではありませんが、研究者たちはエチオピアオオカミの花蜜接触が送粉者として花の繁殖にも役立っているのではないかと考えています。
受粉の媒介はハチやチョウを代表とする昆虫の他に、小鳥やコウモリ、小型の哺乳類などで確認されてきました。
しかしエチオピアオオカミのように、大型の肉食動物が送粉者となっているとすれば、これは史上初めてのケースだといいます。
今回の結果を受けて、研究主任のサンドラ・ライ(Sandra Lai)氏は「世界で最も脅威にさらされている肉食動物の一種について、まだ学ぶべきことがいかに多いかを浮き彫りにしてくれました」と述べています。
ただ新たに判明したこの知見はエチオピアオオカミの生態の理解を深め、適切な保護活動を進めるのに役立つでしょう。