猛毒を持つアメリカドクトカゲの「よだれ」が現代医療で大活躍中!
猛毒を持つアメリカドクトカゲの「よだれ」が現代医療で大活躍中! / Credit: ja.wikipedia
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猛毒ドクトカゲの「よだれ」が現代医療に役立つワケ (2/2)

2025.01.18 17:00:52 Saturday

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検出困難であった腫瘍の検査技術も向上

なんと、ラドバウド大学医療センターのボス氏ら研究チームにより、エクセンディン-4を基にインスリノーマをより正確に検出できる新技術が開発されたのです。

インスリノーマとは、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞に発生する腫瘍で、多くは良性ですが、インスリンを過剰分泌させるため低血糖を引き起こし、眩暈や意識喪失など様々な症状が現れ、最悪の場合、死に至ることもあります。

腫瘍の切除が主な治療法ですが、ほとんどが2cm未満と小さく、技術が進歩して高感度であるにも関わらず、CT検査やMRI検査、PET検査などの画像診断では腫瘍の位置を特定しにくいという問題があります。

また、超音波内視鏡(以下、EUS)や選択的動脈内カルシウム注入法という検査技術も使用されますが、体内に器具を挿入するため麻酔が必要など画像診断に比べて患者への負荷が大きかったり、施設によっては設備が整っておらず実施できないといった課題があります。

腫瘍の位置が特定できない場合、従来は腫瘍が見つかるまで膵臓を切除しており、腫瘍の位置によっては患者が膵臓全体を失い、重度の糖尿病に苦しむケースがありました。

そこで研究者らは、より高性能な画像診断技術を開発すべく、インスリノーマにはGLP-1受容体が過剰に発現することと、エクセンディン-4がGLP-1受容体に特異的に結合することに着目しました。

そして、エクセンディン-4のより化学的に安定したバージョンを作成し、これに放射性物質を結合させてPET検査で可視化しCTで撮影する、68Ga-NODAGA-Exendin-4 PET/CT(以下、エクセンディンPET/CT)を考案しました。

この検査方法の仕組みは、インスリノーマの細胞には正常な膵臓細胞より多くGLP-1受容体が存在する特徴を利用し、放射性物質で印をつけたエクセンディン-4を体内に投与して撮影して、エクセンディン-4が多く集まっている箇所にインスリノーマがあると判断するものです。

新技術エクセンディンPET/CTと従来の技術DOTA-SSA PET/CT、CE-DWI-MRI、CECT、EUSを比較
新技術エクセンディンPET/CTと従来の技術DOTA-SSA PET/CT、CE-DWI-MRI、CECT、EUSを比較 / Credit: Marti Boss et al., The Journal of Nuclear Medicine(2024)

新技術の性能を検証するため、インスリノーマの疑いがある成人患者69名が参加してエクセンディンPET/CTと従来のPET検査であるDOTA-SSA PET/CT、MRI検査の一種であるCE-DWI-MRI、CT検査の一種であるCECTおよびEUSを比較しました。

参加者は、従来の検査方法に加えてエクセンディンPET/CTも受け、うち53名がインスリノーマであると確定診断が下され、切除手術を受けました。

検証の結果、53名のうちエクセンディンPET/CTでは50名(94%)でインスリノーマが検出され、従来の検査方法であるDOTA-SSA PET/CTの35名(66%)より高い数値となりました。

その他の検査方法では、CE-DWI-MRIで72%、CECTで75%、CECTとCE-DWI-MRI の組み合わせで81%、EUSで86%となり、今までのどの検査方法よりもエクセンディンPET/CTが優れていると示されました。

さらに、EUS以外の画像診断検査について比較した結果、7名(13%)がエクセンディンPET/CTのみでインスリノーマが検出され、DOTA-SSA PET/CT、CE-DWI-MRI、CECTでは検出されませんでした。

また、エクセンディン-4を用いたPET検査の先行研究では、放射性物質とエクセンディン-4を化学的に結びつける役割を果たすキレート剤としてDOTAを使用していましたが、今回はNODAGAを使用しました。

NODAGAはDOTAよりも放射線物質68Gaとより効率的に結合することができるため、PET検査での薬剤投与量を少なくすることが可能となりました。

その結果、DOTAを使用する技術では27%の患者が副作用として吐き気を催したのに対し、NODAGAを使用した新技術ではわずか3%となり副作用を減らすことに成功しました。

今後さらにエクセンディンPET/CTの研究が進み、従来のMRI検査やCT検査などその他の検査が不要になれば、診断にかかる時間や費用の大幅な削減が期待されます。

このように、アメリカドクトカゲの「よだれ」はまさに「薬変じて薬となる」良い例といえます。

有毒生物は恐ろしく避けるべき生き物とされがちですが、意外な活躍を知れば彼らの見方が変わるかもしれません。

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猛毒ドクトカゲの「よだれ」が現代医療に役立つワケ (2/2)のコメント

大山

この発見により、どれだけ多くの糖尿病患者が救われたことでしょうか。生命の神秘というか、特別な成分を持つ生き物が存在するのですね。現在、不治の病と呼ばれている病気も、このように他の生き物の研究により治療法が見つかるかもしれません。希望を持たせる記事をありがとうございました。

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