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「急に涙があふれて怒り出す」感情調節が下手なのはADHDのサインだった⁈ (2/2)

2024.12.11 07:00:27 Wednesday

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「心の荒ぶり」がADHDの中核症状だった

感情調節障害とは文字通り、日常生活において感情を適切に管理し、コントロールする能力に問題が生じている状態を指します。

感情調節障害に陥った人は、何らかの感情を誘発する刺激に対して、過剰に反応してしまうか、あるいは極端に抑制される傾向があります。

こうした人は例えば、ほんの些細な出来事ですぐカッとなって激しい怒りを抱いたり、感情が不安定になりやすく、急に悲しくなって泣いたり、逆に感情がほとんど喚起されず、表情に乏しくなったります。

感情が高ぶると物を投げるなどの行動をとってしまったりするのも、この症状に見られる一部です。

要するに、感情の浮き沈みが激しく、心が荒ぶると抑制できない状態になるのです。

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感情調節障害がADHDにつながる?/ Credit: canva

そしてこの感情が上手く調整できないという問題は、ADHD患者でもよく見られることが報告されています。

そこで研究チームは、この感情調節障害がADHDの不注意や衝動性、多動性の根底にある中核的な症状である可能性に着目したのです。

これを明らかにするためチームは、ABCD(Adolescent Brain Cognitive Development Study)研究に参加した小児ADHD患者672名のデータを分析しています。

ABCD研究とは、米国国立衛生研究所(NIH)が主導する大規模な縦断研究プロジェクトのこと。

ここでは子供から青年期にかけてのの発達とその認知機能への影響を理解すべく、1万人以上の子供を対象に10年にわたる長期的なデータ収集を続けています。

さらにチームはABCD研究のデータバンク以外にも、小児ADHD患者263名とADHDではない健康な小児409名を対象にデータ収集を行っています。

被験者の平均年齢は11〜12歳でした。

調査では専用の質問票を用いて、ADHD症状のスコア評価を行うと同時に、認知機能と動機づけ機能も測定。

それから感情調節障害については、保護者の回答による客観的なスコア評価を行いました。

これに加えて、MRI(磁気共鳴画像法)を使い、感情調節機能に関わる脳領域も調べています。

感情調節障害が強いほど、ADHD症状も重くなっていた

そしてデータ分析の結果、ADHD症状の重症度は、認知機能障害や動機づけ機能障害よりも「感情調節障害」との関連性の方が強いことが明らかになったのです。

感情調節障害のスコアが高い子供ほど、ADHD症状の重症度も高い傾向が見られました。

特にADHD症状が非常に重篤な小児350名のうち21%は、認知機能および動機付け機能の欠陥を示しておらず、感情調節障害の高いスコアを示していたのです。

また追跡期間中にADHD症状が緩和する子供たちもいましたが、感情調節障害のスコアが高かった子供たちほど、ADHD症状が慢性化して長引く傾向がありました。

実際にADHD症状の重篤な子供では、感情調節機能と密接に関わる脳領域「下前頭回(かぜんとうかい)」の表面積が他の子供たちに比べて縮小していることが確認されています。

これらの結果を受けてチームは、この脳領域の表面積が小さくなるほど、感情調節障害が強くなり、それが感情の浮き沈みの激しさを引き起こすことで、ADHDに特有の不注意・多動性・衝動性につながっている可能性が高いと説明しました。

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心の荒ぶりがADHD症状につながっていた?/ Credit: canva

今回の研究成果は、心の荒ぶりが制御できない感情調節障害こそが中核的要素となって、ADHD症状の顕在化に寄与している可能性を示唆するものです。

一方で、今回の研究は小児のデータに焦点を合わせたものであり、脳構造や感情調節機能が小児とは異なる大人に同じ結果を適用できるかはまだわかりません。

しかしながら、大人のADHD症状の一つとして感情調節障害が見られることは報告されています。

そのため、大人においても感情調節障害がADHDであることのサインとなっている可能性は十分にあります。

そこで今後は、感情調節機能とADHDとの関連性をさらに深掘りすることが診断の精度を上げていくと期待されます。

その結果次第では、感情調節に焦点を当てた治療がADHD症状を効果的に改善する新たなアプローチとなるかもしれません。

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