亜光速の旅で「時間の差」はどれくらい出る?光速に達した世界とは
物理的な思考実験によると、亜光速で宇宙を旅している人は、地球で待っている人よりもゆっくりと年を取ることになります。
では、光速の90%の速度で火星まで飛んで、地球に帰ってくるとしましょう。
総走行距離を4億5000万キロメートルとし、一度も止まることなく亜光速で往復したとすると、地球にいる人からは約16分40秒経過していることになります。
しかし亜光速で移動した人にとっては約8分20秒しか経っていないのです。
あまり差が出ていないようにも見えるので、もう少し大胆に宇宙旅行をしてみます。
今度は太陽系から約4.3光年の場所にあり、最も近い恒星とされる「ケンタウルス座アルファ星」にしましょう。
速度もさらに速めて、光速の99.99%のスピードで地球とケンタウルス座アルファ星を往復してみます。
すると、地球にいる人からは約8年と8カ月が経過していましたが、亜光速で旅行した人にとっては約1カ月半しか経っていませんでした。
つまり、旅行者が1カ月ちょっと旅している間に、地球の人々は8歳も年をとっていたのです。
これが光速に近いスピードで移動すると体験できる現象、「時間の遅れ」となります。
また変わるのは時間だけではありません。
移動スピードが光速に近づくにつれて、景色も変わってきます。
特に大きく変わるのは光の色の見え方であり、前方の光ほど「青色」に見え、後方の光ほど「赤色」に見え始めるのです。
これは光のドップラー効果によります。
ドップラー効果は、音源が移動するにつれて周波数が変わる現象のことで、救急車のサイレンがよく例えに使われるアレです。
サイレンが近づいてくると音の波長が縮まって高い音に聞こえ、サイレンが遠ざかると音の波長が伸びて低い音に聞こえます。
同じことは光でも起きているのです。
亜光速で移動する人にとっては光が前方からどんどん近づいてくるので、波長が短くなって「青方偏移」を起こし、青っぽく見え始めます。
反対に、後方の光はどんどん遠ざかるので、波長が長くなって「赤方偏移」を起こし、赤っぽく見え始めます。
なので亜光速で宇宙空間を飛んでいると、前を向けば青い景色が、後ろを向けば赤い景色が見えるでしょう。
では最後に、質量の壁を取っ払って人体の質量を0にし、光速にまで到達してみます。
すると何が起こるのか?
まず、光速で進む物体にとって、時間は完全に停止します。
アインシュタインの特殊相対性理論で証明されているように、光速で移動する物体にとっては時間は経過せず、時の流れも存在しなくなるのです。
そのため、光速に達した人は「一瞬」とも「永遠」とも取れるような、言葉では言い表せない時間体験をすることになるでしょう。
さらに光速に達した人からすると、前方の光の波長は無限に短く、後方の光の波長は無限に長くなって、観測できるレベルの範囲を超えてしまいます。
そして「光を見る」ということ自体が不可能になり、暗闇の世界に包まれるかもしれません。
光速に達した人間にはおそらく、時の移り変わりも美しい景色も目にすることはできません。
それはきっと不自由きわまりない世界のはずです。
私たちが今ある自由な世界を満喫できるのは、質量があるおかげだと言えるかもしれませんね。
人間が光速移動するという言い方ではなく、宇宙船でを言わなくてはいけません。空間の移動でないと領域が不定になってしまいます。