「光の速さ」は誰が見ても一定、そして時空はゆがむ
では早速、人間を光の速さまで加速させてみましょう!…といった側から問題発生です。
現実的な問題を考えると、人体はあまりに強烈な加速には耐えられないのです。
加速がキツすぎると、体に加わるG(重力加速後)が過度に大きくなり、血液が手足に送られなくなります。
F15のような戦闘機だと9Gがかかる動きもできますが、それ以上になると血液が体に回らずにブラックアウト(失神)してしまいます。
光速への加速となると、戦闘機の比ではありません。
生身の人間をわずか数秒の間に光速まで加速させたら、あっという間にペシャンコになるでしょう。
なのでここでは、どんな加速度からも守ってくれる”魔法の膜”で人体を包み、光の速さまでどんどん加速させてみます。
すると人体が光速に近づくにつれて、地上ではあり得ない現象が起こり始めます。
まずもって、宇宙空間で進む光の速さは誰が見ても一定で変わらないことがわかるでしょう。
これはアインシュタインが特殊相対性理論の中で示した「光速度不変の原理」と呼ばれるものです。
例えば、魔法の膜をまとった人間が光速の60%のスピードで宇宙を飛んでいるときに、横から光が追い抜いていったとします。
普通に考えれば、その光の速さは光速の60%で移動している人からすると、光速の40%のスピードに見えると思いますよね。
これは誰もが日常的に経験していることです。
例えば、時速60キロで走る車は、地上に立っている人からすると、そのまま時速60キロで走っているように見えます。
しかし時速40キロで走っている車からすると、本来より遅い時速20キロに見えるのです。だから高速道路で追い抜かれるとき、自動車はゆっくりと横を通り過ぎていくように見えます。
ところが真空中を進む光速ではこれが起こらないことが現代物理学の観察結果となっています。
つまり、宇宙空間で止まっている人にとっても、光速の70%で飛んでいる人にとっても、光の速さはまったく同じ秒速29万9792キロメートルに見えるのです。
ところが「光の速さが誰から見ても一定である」というルールを受け入れてしまうと、物理的に矛盾が生じます。
本来の物理法則であれば、光速の60%で飛んでいる人には光の速さが通常より遅く見えるはずなのに、実際にはこれが起こりません。
そこでアインシュタインはこの矛盾を解消するために、逆転の発想をしました。
つまり、光の速さがどんなスピードで移動している人にとっても同じに見えるように、「時間」と「空間」の側が歪むのだと。
小学校でも習う通り、速度とは時間×距離で表されます。どんな速度から見ても相対速度が一定になるよう辻褄を合わせるためには、時間と空間を歪めてしまうしかないのです。
アインシュタイン以前、「時間」と「空間」は誰にとっても絶対的であり、不変であると考えられていました。
しかしどんな速さで進む人にとっても光の速さが変わって見えないのであれば、どんな人にとっても光の速さが常に一定(秒速29万9792キロメートル)に見えるように、時空間の方を調節しようというのです。
例えば、光速の60%で移動する人にとっては、光の速さが秒速29万9792キロメートルになるように時間の方が遅くなります。
要するに「時間」と「空間」の感じ方は絶対不変ではなく、それぞれの速度で進む人によって相対的に変わるものとなるのです。
これがアインシュタインの唱える「相対性」の基本的な意味となります。
簡単なイメージを挙げるとすると、地上にいる人の1時間は、光速に近いスピードで移動する人の1分に相当するようなものです。
これは空間でも同じで、地上にいる人からは10メートルに見える棒が、光速に近いスピードで移動する人にとっては1メートルに縮んで見えるという現象が起きます。
ではもっと具体的に、光に近い速さ(亜光速)で宇宙を旅すると、地上にいる人とはどれくらいの差が現れるのでしょうか?
亜光速でちょっくら火星にでもひとっ飛びしてみましょう。