集団が大きくなるほど、アリの効率性が高くなる
この実験では、アリと人間を3つずつのグループに分けました。
(ちなみに対象としたアリは世界中に分布する「ヒゲナガアメイロアリ(学名:Paratrechina longicornis)」です)
まず、アリは「1匹の単独アリ」「7匹の小グループ」「80匹の大グループ」の3つ。
人間は「1人の単独」「6〜9人の小グループ」「26人の大グループ」の3つです。
また可能な限りのタスクの公平を期すために、人間チームは会話やジェスチャーによるコミュニケーション有りの条件と無しの条件の両方で行われました。
タスク終了後、チームはコンピューターシミュレーションや様々な物理モデルを使って、両者の荷物を運び切るまでの効率の良さを比較しています。
その結果、事前に予測されていた通り、単独で荷物を運ぶ条件では、人間の方が戦略的にも効率的にも単独のアリより優れていました。
ところが集団の数が増えるにつれて状況は一転していきます。
人間チームは数が増えるにつれて荷物を運ぶ効率が下がっていき、特に話し言葉やジェスチャーでのコミュニケーションを禁じられて場合はその傾向が顕著になりました。
単独の場合、約80%の人が15回以内のトライ(T字ブロックを動かした回数)で運搬に成功しましたが、コミュニケーションが遮断された大グループでは、15回以内での成功率が40%以下にまでガタ落ちしたのです。
これについて研究者らは、人数が増えるにつれて自分が動きたい方向が各人でバラバラになり、進みたい方向の対立がチーム内で強くなって、統率性が低下していたからだと説明しています。
Ants and humans share a rare ability: each can work together in groups to mobilize oversized objects. In a new @PNASNews study, Prof. @feinermo and his team explored this, uncovering surprising insights into the strengths and challenges of cooperation >> https://t.co/Z63V4Ka2kL pic.twitter.com/KFKmU4b8Sx
— Weizmann Institute (@WeizmannScience) December 23, 2024
しかし対照的に、アリは数が増えれば増えるほど、運搬の効率性が高まっていきました。
アリ集団の動きを分析してみると、複数回のトライの中で見出された最適な運搬ルートが集団内の全員で共有される現象が起きていることがわかったのです。
その結果、人間の集団とは違って、全員が一定の方向に荷物を進めることができ、運搬の効率性が向上しているのだと考えられます。
研究主任のオフェール・ファイナーマン(Ofer Feinerman)氏は「アリのコロニーは実のところ、みな家族なのです」と指摘します。
「荷物を運搬する働きアリはすべて、同じ女王アリから生まれた姉妹であり、生まれながらに共通の目的意識をもっています。
そのため、アリのコロニーは共通の目的に向かって動く一種の超生命体であると考えられるのです」
アリの社会は「個」の自由を捨てて、「全体」のために動くように進化したことで、小さな体ながらもここまでの繁栄に成功できたのでしょう。