精神科医vsローゼンハン、ガチンコ対決の結果は?
挑戦状を叩きつけた精神科医の病院では、その後3カ月の間に193名の新規患者が訪れています。
そして精神科医はそのうち41名を疑似患者の疑いありとし、最終的に19名を「ローゼンハンが送り込んだ刺客だ!」と判断しました。
果たして、結果はどうだったのか?
なんとローゼンハンはただの1人も疑似患者を送り込んでおらず、精神科医が「ニセモノだ」と診断した19名は全員本物の精神疾患に悩む人たちだったのです。
この結果から、当時の精神科医たちがいかに主観的で不正確な診断を下していたかが明るみになりました。
ローゼンハン実験は「精神医学には正気な人とそうでない人を見極めるための信頼できる基準がない」ことを明らかにし、当時のアメリカ医学界に衝撃をもたらしたのです。
この実験がフェアじゃないと感じる人もいるかもしれませんが、もしこれががんなどの病気だった場合、患者がいくら自分ががんだと訴えても実際に抗がん剤治療を受けてしまうことなどありえません。そう考えると精神疾患に対する診断の曖昧さは大きな問題だと言えます。
またローゼンハンは潜入実験の中で、患者たちが勝手に荷物の中身を詮索されたり、ときには電気ショックなどの拷問のような治療を強要されたりと、非人間的な扱いを受けていたことを目にし、「精神病院においては人間のラベリング(決めつけ、偏見)および人間性を損なう危険性が存在する」と結論づけています。
こうしたローゼンハンの実験を受けて、精神疾患の診断基準は大きく変更され、現在では精度の高いものになっていると言われています。
その一方で「ローゼンハン実験には真偽の不確かな部分もある」とのちに報告されるようになりました。
ジャーナリストが調査をした結果、ローゼンハン実験に参加した疑似患者8名のうち3名しか身元を確認できず、残りの5名はどこの誰だかわからず、捏造の疑惑が浮かび上がったのです。
またローゼンハン自身も病院側の対応に関し、事実を誇張して報告した疑いがあるという。
ローゼンハンは2012年に亡くなっており、真実は闇の中ですが、この調査レポの詳細は2019年に『なりすまし——正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験』として出版されています。