単一電子の物質波を螺旋状に変えることに成功
単一電子の物質波を螺旋状に変えることに成功 / Credit:Structured electrons with chiral mass and charge
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単一電子の物質波を螺旋状に変えることに成功 (2/2)

2024.12.27 17:00:24 Friday

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「単一電子」が光のスクリューパンチでコイル状に変化

コイル状の単一電子の物質波が生成されている様子
コイル状の単一電子の物質波が生成されている様子 / Credit:Structured electrons with chiral mass and charge

光のスクリューパンチで空中を飛んでいく電子の物質波はどうなるのか?

謎を解明するため研究者たちは実験セットを組み立てました。

まず「超高速電子顕微鏡」と呼ばれる特殊な装置を用いて、極めて短い時間パルスの電子をつくります。

これは、ふだんの電子顕微鏡よりもはるかに速い「シャッター」機構を備えており、多くの場合、電子がほぼ1個ずつバラバラに飛び出すほど希薄なパルスに制御できます。

結果として、1個の電子を狙ったタイミングで射出することが可能になります。

次に、電子が進む空間に「渦巻き状の光」を通す仕組みを作ります。

ここでポイントとなるのが、ナノメートルスケールの極薄膜(たとえば窒化ケイ素膜)を用いることです。

電子1個の物質波と「光のスクリューパンチ」を同じ空間へ通過させる際、この極薄膜が光の状態を変化させ電子との相互作用が可能になります。

同時に光の電場によって電子の一部が加速・減速され、波動関数に微妙な位相ずれが生じます。

これらの相互作用によって、光の螺旋パワーが電子に伝達されることになります。

そして最後に、光の螺旋パワーを受け取った電子の物質波がどんな状態かを観察しました。

具体的には、スクリーンや検出器に当ててできるパターン(干渉模様)を見たり、電子がどのくらい“ねじれ”を持っているかを測定したりしました。

結果、スクリーン上に映し出された電子の干渉パターンから、電子の物質波が飛んでいく途中で「くるくるりん」とねじれたようなコイル(螺旋)状になっている様子が明らかになりました。

測定装置に映された電子の様子。分析により物質波がコイル状であることがわかりました
測定装置に映された電子の様子。分析により物質波がコイル状であることがわかりました / Credit:Yiqi Fang et al . Science (2024)

また分析によりこの現象が、渦巻き状の光がもつ“螺旋パワー”によって、電子の波が部分的に加速されたり遅れたりすることで起こっていたことがわかりました。

イメージとしては、まっすぐ並んでいた電子の“波”が、光からもらった回転の力を受けてじわじわとねじれていくような感じと言えるでしょう。

ちょっかいを出す光の性質を操作すると、コイルの方向が逆になったり螺旋状にならなくなったりします
ちょっかいを出す光の性質を操作すると、コイルの方向が逆になったり螺旋状にならなくなったりします / Credit:Yiqi Fang et al . Science (2024)

さらに照射する光のスクリューを操作すると、電子のコイルの形状も大きく変わることが明らかになりました。

たとえばレーザーパルスに角運動量がゼロの状態であれば、生成される電子は上の図の左側のように「カイラリティなし」の棒のような状態として扱えることがわかりました。

一方、照射する光の角運動量を1に設定すると、電子の電荷と質量の波動関数は「左巻きコイル」のキラリティを示し、角運動量量子数が-2の場合は「右巻きの二重螺旋」になることが確認されました。

(※ここで言う角運動量とは軌道角運動量のことを示します)

またこうした「螺旋状」の電子(カイラル波パケット)を、同様にキラルな性質をもつナノ粒子に散乱させたところ、興味深い結果が得られました。

左巻き電子を左巻きナノ粒子に当てると、電子側のカイラリティは弱まり、右巻きナノ粒子に当てると強まる――その逆の組み合わせについても同様の変化が見られたのです。

研究者たちはこの結果について「光パルスが電子の波動関数にキラリティー(左右の回転)を刻み込み、電子に実際に分極や角運動量を与えることなく、電荷と質量を持ったコイルに変換している」と述べています。

またコイル状の電子の質量の分布を調べた結果、質量の中心はコイルの中心を貫く直線上に存在することが明らかになりました。。

研究者たちは、今回の発見がさまざまな分野で応用できる可能性を秘めていると考えています。

具体的には、電子顕微鏡、磁性材料の研究、そして光ピンセット(非常に小さい物体を光の圧力で掴む)などで有用だと予測されています。

さらに研究者たちは「このコイル電子自体が、もし自然界に存在するなら、宇宙論的な意味を持つかもしれない」と述べています。

(先に述べたように)もし自然界で左右にねじれた電子の物質波が見られ、それが何らかの対称性の破れを増幅・反映しているなら、物質—反物質非対称やパリティ破れの理解につながるかもしれません。

また電子がコイル状の波動状態を部分的に形成できるなら、宇宙初期のプラズマの伝搬モードや乱流の性質が変わり、大局的な構造形成(密度揺らぎの成長など)に微細ながら影響を与える可能性もあるでしょう。

もし遠い将来、人間の物質波をコイル状にするイタズラが実現したのなら、物質化した人間は螺旋状にねじれたまま実体化してしまうかもしれませんね。

もっとも、その頃には「真っ直ぐに戻す装置」もきっと開発されていることでしょう……たぶん。

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単一電子の物質波を螺旋状に変えることに成功 (2/2)のコメント

若林直樹

磁場が螺旋の時は、電流は直線に。電流が螺旋の時は、磁場が直線に。この見解は、一般的なものでしょう。この宇宙の物質は、質量、電荷、角運動量の三つで表す事が出来ます。(ブラックホールの三本の毛)光に質量が、無いのと同じ様に、ねじれた螺旋状態の電子に角運動量が無いという実験結果は、非常に興味深いです。あのブラックホールですら、角運動量を持っているのですから。個人的には、鏡の性質とよく似ていると思います。(上下だけ同じ)螺旋の電子の性質が、私達の好奇心と、科学をより一層深める事を祈っています。

    みやーん

    物質から角運動量が取り除かれるとどうなるのですか?
    物質でなくなる?

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