第一の惨事:プルトニウムの上にブロックを落としてしまい…
終戦後すぐの8月21日、マンハッタン計画の一環として原子爆弾の開発を進めていた「ロスアラモス国立研究所」に一人の研究者がいました。
彼の名はハリー・ダリアン(1921〜1945)、マンハッタン計画に参加していたアメリカ人物理学者の一人です。
ダリアンは戦争が終わったにも関わらず、プルトニウム球体「ルーファス」を使って危険な実験をしていました。
その実験のトンデモなさを理解するにはまず、ただの金属球に見えるルーファスがどれだけヤバい物体なのかを知っておく必要があります。
ルーファスは膨大な数の「プルトニウム239」という同位体でできており、これはウラン235と並んで非常に高い核分裂性を持っていました。
もっと噛み砕いて説明しましょう。
プルトニウム239の中心部には「原子核」があり、ここに外から飛んできた極めて小さな粒子である「中性子」がぶつかると、原子核が不安定な高エネルギー状態になります。
するとプルトニウム239の原子核は2つに分裂し、同時に中性子を飛ばします。
この中性子が近くにある別のプルトニウム239にぶつかると、また同じような核分裂反応がネズミ算式に広がります。
これが連鎖反応です(下図を参照)。
こうした核分裂の連鎖反応を瞬間的に引き起こして莫大なエネルギーを発する兵器が「原子爆弾」というわけ。
核分裂の際には「放射線」も放出されるので、実に危険です。
そして最も重要なこと、それはプルトニウム239が放っておいても勝手に核分裂を起こして中性子を放出することです。
「じゃあ、ルーファスを持っておくこと自体あぶねーじゃん」と思うかもしれませんが、心配いりません。
自然状態で核分裂したものは外部に逃げ去っていくので、先のような連鎖反応を起こさないからです。
ただし!ルーファスから発生した中性子が外に逃げられないような障壁を設ければ、他のプルトニウム239にぶつかって連鎖反応が起こります。
ここまでの前提を知っておけば、ダリアンの実験がいかに危険かがわかります。
では彼が何をしたのかというと、ルーファスの周りに中性子を反射できる重たいブロックを積み重ねて、それをルーファスに近づけたり離したりしたのです。
これがどれだけ危ないかわかるでしょうか?
ブロックをルーファスから離していれば、中性子も外に逃げる隙間があるので連鎖反応は起きません。
しかしブロックをルーファスに近づけると、中性子の逃げる隙間がなくなって連鎖反応が起きます。
ダリアンはブロックをルーファスに限界まで近づけて、連鎖反応が起きるギリギリのラインを調べようとしたのです。
しかも当時は手動でブロックを持ち上げたり、降ろしたりしていました。
そして悲劇は起こります。
ダリアンがブロックを動かそうとした際に、誤ってルーファスの上にブロックを勢いよく落っことしてしまったのです。
その瞬間、核分裂の連鎖反応が起こり、研究室には一瞬にして青白い閃光が走りました。
連鎖反応はおよそ2分続いたとされ、この間にダリアンは約5.1シーベルトの放射線を浴びています。これは2人に1人が死んでしまう被曝量です。
案の定、ダリアンは強い吐き気を催して嘔吐し、病院に救急搬送。
放射線が彼の生体機能を破壊して、事故から25日後には帰らぬ人となりました。
こうしてルーファスを使った核実験は終わった…かと思いきや、ほぼ同じ実験を始めた恐れ知らずの科学者がまた現れるのです。