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biology

人が人を絶対に食べてはいけない「科学的な理由」 (2/2)

2025.01.14 12:00:52 Tuesday

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人を食べるべきでない科学的な理由

そもそも生物はヒトも含めて、自分たちの種に有利になるように生存競争を進めていかなければなりません。

その上で人が人を食べることは進化上の観点からするとデメリットだらけなのです。

食人行為のデメリットは大きく分けて3つあります。

1つ目は「狩りのコストが高すぎること」です。

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Credit: canva(ナゾロジー編集部)

狩猟をする生物はいかに体力を削らず楽に獲物を得られるかをモットーにします。

もし人を好物とする食人族がいたとすると、彼らは自分たちと肉体的および知的に同レベルの相手を狩らなければなりません。

これはウサギやシカ、イノシシを狩るより遥かに労力がかかる上に、間違ったら自分がやられる確率が非常に高いのです。

まず、この狩りのコストという点で食人行為は割に合っていません。

2つ目は「人肉の栄養価が低いこと」です。

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Credit: canva(ナゾロジー編集部)

これについては英国ブライトン大学が2017年に興味深い研究を報告しました(Nature, 2017)。

ここで研究チームは「食人族が体重55キロの男性を食料にした場合に得られるカロリー量」を試算したのです。

具体的には、心臓は650キロカロリー、肝臓は2570キロカロリー、太ももは1万3350キロカロリー、上腕は7450キロカロリー、脳と脊髄は2700キロカロリーというように各部位のカロリーを計算し、これらを合わせて人体一つの総カロリー量は約12万〜14万キロカロリーになると算出しました。

一見するとすごい高カロリーにも聞こえますが、実はこれは25人の成人男性が半日もつかどうかの栄養しか得られない数字なのです。

それならば、集団で協力した1頭のマンモスを仕留めれば、同じ数の男性が2カ月間暮らせるだけの食料が得られるとチームは述べています。

なので、毎日の栄養を効率的に摂る上で食人行為はまったく向いていません。

しかし最大のデメリットは3つ目にあります。

それが「病気への感染リスクが極めて高いこと」です。

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Credit: canva(ナゾロジー編集部)

私たちの体は表向き健康そうに見えても、さまざまな細菌やウイルス寄生虫などが棲みついている可能性があります。

そして重大なポイントは、ある人に感染した細菌やウイルス、寄生虫が同種の人間であれば容易に伝染しうる点です。

例えば、他の動物からヒトにウイルスが伝染するには、そのウイルスに何らかの遺伝子変異が起きる必要があります。

イメージとしては、コンセントのプラグの形がちょっと違う様を想像してもらうといいでしょう。

ある動物には挿せるコンセントでも、プラグの形が違うヒトには挿さらず、感染が起きません。

しかしヒト同士であれば、プラグの形を変えなくともそのまま感染できるわけです。

では日常的に人肉食を続けているとどうなるのか?

この疑問に答えてくれる実例が過去にあります。

南太平洋のパプアニューギニアに先住する少数民族「フォレ族」の事例です。

フォレ族は1950年代まで、日常的に死者の肉を食べて弔う風習を持っていました。

具体的には、死者の筋肉部位を男性が食べて、脳と臓器を女性が食べていたのです。

その中で奇妙な病気がフォレ族の間に広がり始めます。

全身の筋肉が緩んで上手く立てなくなったり、体中が激しく震えて止まらなくなったり、何も口にすることができず、最終的には肺炎で死亡してしまうケースが急増したのです。

この謎の病気は現地で「体が震える」という意味から「クールー病」と呼ばれています。

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クールー病にかかったフォレ族/ Credit: ja.wikipedia

研究者が詳しく調べたところ、その原因は死者の脳内に潜む「プリオン」という病原性物質にあることが判明しました。

プリオンは周囲の正常なタンパク質を病原性物質に変質させながら、脳を徐々に蝕んでいく恐ろしい物質です。

これが原因でクールー病が発生しており、実際に脳を食べていた女性により多くのクールー病が見られていました。

このように食人行為を日常化させる集団は、いつか必ず何らかの伝染病を引き起こし、破滅の道を歩んでいく運命にあるでしょう。

こうした科学的な理由から「人は人を食べるべきではない」とはっきり断言できるのです。

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人が人を絶対に食べてはいけない「科学的な理由」 (2/2)のコメント

884

めっちゃ面白い

ひかりごけ

カマキリはカリバニズム遺伝子を進化の過程で獲得したのかな? ある面で効率的で自種完結型なのに対し、人間はカマキリと違う方向で進化してくれてよかった、のだろう?
倫理観とも関連しておもしろかったです。

    メスカマキリ

    人間はカマキリとは違う進化をしちゃったんですね。残念。あなたにバックから犯されながら貴方の頭をもぎ取って食べたかったな

ゲスト

‪👍🏻

    ゲスト

    オスを食べたメスと、オスを食べなかったメスの、産卵を比較した実験があり、それによると、
    「オスを食べて栄養補給したメスのほうが、産卵数が多い」
    とのことです。
    カマキリ オス 食べられる 比較
    等で検索してみてください。

口下手ですので

人肉食は コスパ悪いから流行らないという説明が興味深かった
あと 多分 人肉は無理してでも食うほど美味くないのでは?

    たまご

    子供とか乳児とか、狩るためのコストが低い存在が居る以上、この説明は成り立たない。多産でなく再生産コストが高いとかなら分かるが。

    たまご

    子供や乳児など、狩猟コストが低いのは幾らでも有るので、論旨が間違い。多産でないので再生産コストが高いのならわかる。

    ゲスト

    「畜産」しようとするとコスパが悪いって話では?
    人を育てるための「餌」は結局のところ人が食べるものでなければ健康に育たないんで、十数年分の時間と食料を糞に変えて(記事によれば)半日分のカロリーを作ってるのと同じってことになる。

    ゲスト

    失礼、半日じゃなくて12.5日/人か。

ゲスト

ミオグロビンは酸素と結びついて赤くなる奴だろ。あれって牛にも豚にもあるし。
DNAしらべたってことなのか?

    ゲスト

    それはヘモグロビンだ

雛鶴

人間も一種の哺乳類と考えたらね…
でも、決して食べたいとは思いませんが…

ゲスト

脳を食べずに火を通せば問題ないってこと?

    ゲスト

    プリオン病は中枢神経の疾病だから、脳はヤバいです
    ハムスターの実験で感染した脳組織を600℃で灰にしてもまだ感染力があったようです

共食いを日常的に行うようになると種として絶滅するしかないので日常的に共食いをするようにはなりません。コメントにあるカマキリは交尾後にオスが食われる事がありますが、これはオスの体が子孫を残すための栄養となるのでオスにもメリットがあります。交尾後にオスが食われる例はクモなどでもありますが日常的に同種を狩って食べる生物はいないと思います。

ゲスト

ちょっと違う話だが
イスラム教で豚は不浄なので食べないのも似た理由と言えるかも

臓器移植できるくらい免疫的に人間に近いから
共通のウィルスとか寄生虫が多くてリスクが高い

ゲスト

君子は庖廚へ近づかず、厨房で屠殺された動物見たら食いたくなくなるから
動物だって食欲が失せかねないのに意思疎通が容易に出来る同族を好んで食うやつは居ないだろうなぁ・・・
論理無視しても、人間だったら食料より労働力の方が価値が高そうって考えると宗教的な理由以外は日常的に食べる目的にならなそうだ

ゲスト

コンセントとプラグが逆

しばわんこ

一番の理由は、共感性などからくる抵抗感でしょ。当たり前だけど。
そういえない人は知性を持った社会性のある動物として欠落してるよ。

ゲスト

これもまたか、本当うんざり。クールーは免疫ある人なら感染者の脳を食っても死なない事をどの情報サイトも動画も番組も言わないの何なん。ケチュア族は砒素に免疫を持っていたり、雑食や肉食の動物は半分くらいが共食いする、それは共食い如きでは簡単に絶滅しない事を証明している。同種を主食として養殖してまで食ってたら不効率だけど必要に迫られたら食った方が良い。共食いしたら100%死ぬみたいなアホな二極的論法へ誘導しないで欲しい。この記事ではそこまでは言ってないし生地の共食いにはリスクがあるよという主張には同意するけどメリットがある事を言ってないのがダメ。

    ゲスト

    2018年の研究においてプリオンタンパクに対する自然免疫の獲得に関する論文が出ています(2018,石橋大輔)が、
    プリオン病に対する抵抗があるのは、免疫がたまたま学習し抵抗する(自然免疫)からではなく、もとからプリオンタンパクの接触によって、畳み込み構造を変化させるためのスイッチとなる受容体が変異しているから、という理由でプリオンタンパクに対する抵抗がある人のほうが多いように思われます(クールー病の話題として挙がるフォレ族自身からも、別の個体からは非感染効果のある遺伝子変異が見つかっており、フォレ族の中には感染する人もしない人も混じっている、そしてこれは、一般的には免疫とは、みなされない。免疫には2種類あり、先天的な免疫とは、マクロファージやNK細胞などの、学習を必要としない免疫細胞らによる活動によって行われる免疫機能を指すが、ここに、遺伝子の変異に由来する機能を当てはめて考える例は少ない。ちなみに、この変異をもつ人は、ヤコブ病など他のよく知られるプリオン病に対しても抵抗力をしめすという興味深いことが知られている。特異性の高い免疫が、全く構造の異なる原体に対しても効力を示すことは、免疫として当てはめることを困難にする理由となる,2015,Emmanuel.A.Asanteら)。

    ところで、先天か学習かに因らず、免疫が獲得されたのであればプリオンタンパクに対する抗体価が上がるはずですが、もとから感染しないのであれば抗体価は上がらないか、限定的である可能性があると考えます。ただし、どちらの経路が理由で、そのプリオン病への感染を防止しているかの割合を調査した研究や論文は、例がないように思われますが、だれかご存じの方いますか。

    話は反れましたが、自身が既知のプリオン病に対して抵抗があり、また、他の、捕食対象となる人物が保有している病原体に対する免疫によって未然にカバーされているのであれば、食人を行うべきではない3番目のリスクは取り除かれます(加熱調理などによって安全性を高めることももちろん可能である、ただしプリオンタンパクは加熱に強いため、完全にタンパク質の構造が破壊されるような、ウェルダンを超える程度の加熱が必要である)。タンパク源は食品としての生産コストが高いため、環境負荷を減らすためにも、人肉を食料として有効活用する方法の模索が望まれるため、このメリットの得るために、プリオン病とそれへの感染抵抗について正しい理解が広まる必要があることでしょう。

みたらしだんご

共食いしている生き物ってどういう気持ちで食べてるのかな?気になる〜

多人の空似

関係無いけど「ソイレントグリーン」をまたみたくなった。

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