絶滅の危機に瀕しているオーストラリアの有袋類
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オーストラリアでは、コアラやタスマニアデビルなどの有袋類が、生息地の破壊や病気によって絶滅の危機に瀕しています。
例えば、タスマニアデビルは顔面腫瘍性疾患(DFTD)の流行により個体数が激減しています。
またコアラも森林火災や都市開発の影響で急激に数を減らしています。
こうした状況を受けて、有袋類の保全には人工繁殖技術の確立が不可欠だと考えられています。
しかし、有袋類の繁殖は通常の哺乳類とは大きく異なります。
彼らは有胎盤類ほど高機能な胎盤を持っておらず、妊娠期間が非常に短いのです。
そのため赤ちゃんは未熟な状態で生まれ、その後は母親の袋(育児嚢)に入って、数か月かけて成長します。
この独特の生殖システムにより、有袋類に対する体外受精技術は、家畜ほど研究されてきませんでした。
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そこで、クイーンズランド大学の研究チームは、この課題を克服するためにオオカンガルー(学名:Macropus giganteus)をモデルとし、初の体外受精に挑戦しました。
オオカンガルーは他の有袋類とは異なり、個体数が非常に多く、有袋類の最初の研究対象として最適だったのです。