アッシュの同調実験—人はなぜ流されるのか?
ソロモン・アッシュは、社会心理学の分野で数々の影響力ある研究を行った心理学者です。彼は個人の判断がどのように社会環境によって左右されるのかに強い関心を持っていました。
当時、第二次世界大戦が終わり、ナチス政権下での人々の行動に対する反省が広まっていました。
「なぜ多くの人々が、明らかに間違っていると感じながらも権威や集団に従ってしまったのか?」という疑問は、多くの研究者の間で議論されていました。アッシュは、この疑問を科学的に解明するため、実験を設計したのです。
アッシュの同調実験では、参加者を8人1組のグループにし、そのうち1人だけが本当の被験者で、残りの7人はサクラでした。参加者には、異なる長さの3本の線と基準線を見せ、どの線が基準線と同じ長さであるかを答えさせました。
実験は12回の試行され、そのうち7回はサクラが全員間違った答えを言うという仕掛けがされていました。そして被験者が明らかに間違った答えを聞かされた状況で、どのような反応を示すのかを観察したのです。
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その結果、多くの参加者は自分の目で見た正しい答えではなく、周囲の間違った意見に流されることが確認されました。
実験では被験者の75%が、多数派の誤った答えに最低1回は同調したと報告されています。
多くの人は最初は自分の直感に従っていたものの、試行を繰り返すうちに徐々に「自分が間違っているのではないか」と不安を抱き始め、最終的に集団の意見に従うようになったのです。
しかし、興味深いことに25%の被験者は一度も周囲の意見に流されませんでした。
この「一度も流されなかった被験者」は、12回の試行すべてにおいて、自分の直感を信じ、たとえ周囲と違う選択をしても、自信をもって自分の判断を貫いたのです。
これはその人の性格によって、同調圧力の感じ方が大きく異なることを示しています。
では、どうして多くの人は自分の考えや信念を周囲の反応で簡単に変えてしまうのでしょうか?