土の錠剤「テラシギラタ」とは?
意図的に土を食べる「土食文化(ジオファジー)」はかなり古くからありました。
古代人たちは土を食べることでミネラル補給になったり、寄生虫の感染予防になると考えたのです。
そんな中、地中海に浮かぶリムノス島のギリシャ人たちは紀元前500年頃に、毎年同じ日に同じ丘で、赤い粘土を採取する慣習を持っていました。
採取された赤土は水で洗って精製された後、丸みのある錠剤型に成形され、乾燥させることで保存可能な状態にされます。
その後、島の女祭司が儀式めいた祈祷を施したあと、土の錠剤に公式の印を刻みました。
この”押印された土”という意味から「テラ・シギラタ(Terra sigillata)」と呼ばれるようになったのです。
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当時、リムノス島で採取される赤みを帯びた粘土には、解毒作用や消化不良の緩和などに効果があると信じられていました。
もう少し具体的にいうと、土が毒物を吸着し、体外に一緒に排出されることで、毒の吸収を抑えると考えられていたのです。
そうしてテラシギラタは島の薬局のような場所に送られ、医薬品として売られるようになりました。
テラシギラタは特にギリシャ・ローマ時代に人気を博し、国中に流通します。
テラシギラタの取引はギリシャ・ローマ時代の終わりと共に下火になりますが、ルネッサンス期になると、ヨーロッパ中で再び注目されるようになります。
このときにはテラシギラタは解毒剤としてだけでなく、赤痢、潰瘍、出血、淋病、発熱、腎臓病、眼病などあらゆる病気の治療に用いられました。
現代の科学的な観点から見ると、テラシギラタにはそのような治療効果はありませんが、当時は思い込みによるプラセボ効果によって確かに病気が治る患者もいたため、万能薬として持ち上げられたのです。
死刑囚のトゥンブラートはこの噂を耳にした訳ですが、では彼の賭けはどうなったのでしょう?