火星の赤は単なる酸化鉄ではなかった!?

これまで火星が赤く見える理由は、酸化鉄の砂塵、つまりは錆びた塵が惑星を覆っているためだと説明されて来ました。
実際、火星に降り立った探査機の映像でも火星表面は荒涼とした赤い荒野が広がっていますが、これは錆を含んだ砂のせいだとされています。
しかし、新たな研究はこれが、酸化鉄ではなくフェリハイドライトという物質の可能性があると報告したのです。
とはいえ、その発見は一体何を意味するのでしょうか?
フェリハイドライトとは水と鉄が結びついた状態で形成される水を含む鉄鉱物(水酸化鉄)で、地球でも湖底の堆積物や温泉地帯、地下水の酸化領域で見つかり、微生物の活動によっても生成されることが知られています。
この鉱物は特に冷たい水がある環境下で急速に形成されるため、火星に水があったときに形成されたはずだと考えられます。
これまでの定説では、数十億年前の火星は温暖で水が豊富に存在していたのものの、その後寒冷化し短期間で蒸発・消失して現在の乾燥した惑星になったと考えられていました。
しかし、フェリハイドライトが火星を覆う砂塵の主成分である場合、火星の水環境は短期間で消えたのではなく、寒冷化後も水の保持された状態が想定よりはるかに長期間維持されていた可能性を示すのです。
この発見は、火星の気候進化の理解を根本から見直す必要があることを示唆しています。
さらに、フェリハイドライトは水と結びついているため、乾燥した環境では徐々に分解し、他の酸化鉄鉱物へと変化する性質を持っています。
もし火星の表面に現在もフェリハイドライトが大量に存在しているなら、それは火星が比較的最近まで水を保持していた証拠になるかもしれないのです。
なぜフェリハイドライトはこれまで見落とされていたのか?

もしこれが事実なら、なぜ今までずっと勘違いされたまま見落とされていたのでしょうか?
火星の表面にどんな鉱物があるのかを調べるため、科学者たちは「分光学的手法」と呼ばれる技術を使ってきました。
この方法では、火星の表面に当たる太陽光の反射を分析することで、そこにどのような物質があるのかを特定します。
しかし、この方法には弱点があります。
例えば、これまで火星でよく見つかっていたヘマタイト(酸化鉄)は、光を反射する特徴がはっきりしているため、遠くからでも比較的簡単に検出できます。
一方、フェリハイドライトは、結晶になりづらく非常に細かい粒子のまま存在することが多いため、他の物質と混ざり合う形で検出されます。そのため光を反射する特徴がはっきりせず、これまでの技術では識別しにくかったのです。
今回の研究では、より精密な分光分析と実験室での比較を行うことで、従来の方法では見つけるのが難しかったフェリハイドライトの存在を明らかにしました。
では今回の発見によって、火星についてどのように理解の仕方が変わっていくのでしょうか?