再発率63%から35%へ、一体何が起こった?

今回の研究では、まず細菌性膣炎(BV)の女性とその男性パートナーを対象に、オープンラベル(参加者や研究者がどの治療を受けているか隠さない方式)で、ランダム化比較試験(くじ引きのように無作為にグループ分けして効果を比べる方法)が行われました。
研究チームは合計で164組のカップルを登録し、そのうち150組が12週間の追跡調査を完了しました。
2つのグループに分けられたうち、1つ目のグループでは女性が標準的な抗生物質(飲み薬や膣に塗る薬)による治療を受けると同時に、男性にも400 mgのメトロニダゾールを1日2回、7日間服用してもらい、さらに2%クリンダマイシンのクリームを1日2回、陰茎に塗ってもらいました。
陰茎にクリームを塗るという方法は従来あまり行われてこなかったため、男性側の菌を直接減らせる点がユニークです。
女性の治療も通常のBV治療で用いられる薬剤を使うため、現場での実用化への期待感が高まる手法でした。
一方で、もう1つのグループでは女性のみが同様の標準治療を受け、男性には特に治療を行いません。
12週間後、女性のBVの再発率を調べてみると、男性も同時に治療したグループでは35%だったのに対し、男性が治療しなかったグループでは63%にのぼることが判明。
この大きな差が早期の段階で確認されたため、独立したデータ安全モニタリング委員会は「試験を継続しなくても十分に有効性が示された」と判断し、結果的に試験は早期終了となりました。
なお、男性の治療中に出た副作用としては、飲み薬にありがちな吐き気や金属のような味がする、軽い頭痛などが報告されましたが、治療を中断せざるを得ない重大な症状は特に見られませんでした。
女性の治療に加え、男性も一緒に抗生物質を用いることで大幅に再発率を下げられたのは、男性の尿道や陰茎の皮膚に潜むBV関連菌を直接排除し、女性の治療後にパートナーを介して再び感染してしまう“負のループ”を断ち切れたことが大きいと考えられます。
これまで女性のみをターゲットとする治療が多かった中で、「パートナーの男性も同時に」治療を受けるという発想の転換は、長年取り組まれてきたBV対策の中でも画期的な進展といえるでしょう。
研究チームによれば、試験に参加した女性の中には数年にわたりBVの再発がなくなった例もあるとのことです。
適切な服用と陰茎へのクリーム塗布によって、女性の膣内環境を健全に保つだけでなく、男性側に潜む細菌の増殖源をより確実に抑制できた結果とみられます。
ただし、男性本人は自覚症状がほとんどないため「治療に協力してもらう」ことが難しいケースも想定されますし、抗生物質の長期使用による耐性菌リスクも見逃せません。
それでも、今回の成果によってBV再発に悩む女性が男女ともに治療に取り組む選択肢を持てる可能性は大きく広がりました。
今後は、複数のパートナーを持つ場合や男性が治療を拒む場合など、さまざまな状況下での効果検証を行う必要があります。
さらに耐性菌の対策や長期的な有効性についての追跡研究も重要です。
こうした追加調査を通じて、より多くの人が恩恵を受けられる治療戦略となりうるかどうかが判明していくでしょう。
科学的根拠に基づく「男女同時治療」という新しいアプローチは、BVの慢性的な再発を食い止めるうえで大きな一歩となると期待されています。