見えてきたのは「遺伝の重なり」だった

調査の結果、ADHD、発達性読み書き障害、発達性算数障害は、それぞれ約9〜10%の子どもに見られました。
注目すべきは、それらの障害を2つ以上併せ持つ割合が全体の約23%にとどまり、大多数の子どもたちは一つの特性しか持っていなかったという点です。
つまり「三つ巴で現れるのが当たり前」というわけではありません。
これはADHDで集中できないから学習障害も起きるという単純な関係ではない可能性を示唆します。
しかし、たとえばADHDのある子どもは、読み書きの困難を抱える確率が約2.7倍、計算に苦手さを抱える確率が約2.1倍に上ることがわかりました。
さらに、読み書き障害を持つ子どもは算数障害を持つ確率が3.1倍高いという結果も得られました。
研究チームはこの関係が「一方の障害が他方を引き起こしている」のではなく、「同じ要因から複数の障害が生まれている」のではないかと考え、双子間の差異や時系列での能力変化、行動遺伝学モデルなど複数の手法を組み合わせ調査を行いました。
その結果、読みの能力がスペリング(書き取り)に影響を与えるという一方向の因果関係は確認されましたが、それ以外の関係性──たとえばADHDが読みの困難を引き起こす、といった因果関係は見られませんでした。
代わりに浮かび上がったのは、ADHDも読み書きの困難も計算の苦手さも、同じような遺伝的背景によって生じているという事実でした。
つまり、これらの障害が一緒に現れやすいのは、ある共通の「遺伝的な素因」がそれぞれに影響を与えているからなのです。
この発見は、私たちの支援のあり方にも大きな示唆を与えます。
たとえば、ADHDを治療すれば学力も向上する、といった安易な期待は現実的でないかもしれません。
逆に、学習支援を通じてADHDの症状が消えるという保証もありません。
それぞれの特性は互いに関連し合っているわけではなく、共通遺伝子から独立して発生しているため、それぞれに適した支援が必要なのです。
また、この研究は「親の育て方が悪いから子どもが集中できない」といった誤解にも強く反論するものとなっています。
学習や行動の困難さには、生まれつきの素因が関係していることが明らかになったのです。
発達特性の理解が進むことで、子どもたち一人ひとりに合ったサポートが提供される社会に近づくことができるかもしれません。
今回の研究は、その大きな一歩となるでしょう。
近年まれにみる素晴らしい統合的な研究の紹介に感謝します。心理学と教育学と社会学と遺伝学等に関わる人々,さらに子供を持つ親にとっても必読です。また,ヒトの特性が遺伝か環境かというと必ず行われる一卵性双生児の研究ではなく,一卵性と二卵性をこのように比較した双子研究の方が優れているように思いました。その結果,統計的な手法はよく理解できませんでしたが,ルーツが同じ共通の遺伝子がそれぞれに影響を与えているというのは驚きです。なお,元論文によると三つ巴で現れる確率は0.7%であり,ふたつの障害が重なるのは1.1%~1.9%,単独の障害は5.7%~6.4%ですね。