木材強化の常識をくつがえす「自己密化」

木材は古来より建築や家具、道具などに幅広く用いられてきました。
その理由は、軽量で加工しやすく、再生可能な自然素材として扱いやすいからです。
しかし強度や耐久性の面では、鉄やアルミニウムなどの金属、あるいはカーボンファイバーやガラス繊維のような人工素材に比べて劣っていました。
近年、軽量かつ高強度な構造材が求められる中で、木材を強化する技術の研究が進んできました。
中でも代表的なのが圧密化という方法であり、木材に薬品処理を施したのち高温高圧で繊維に対して垂直な方向に圧縮することで強度を高めます。
これにより作られた「圧縮木材」は、天然の木材よりはるかに硬くて強くなります。
しかしながら、この圧縮木材にはいくつかの課題がありました。
たとえば加工には大量のエネルギーが必要となるため、コストが高くなります。
また、一方向にしか強くならないため他の方向からの力には弱い場合があり、さらに圧縮後に寸法が安定しないという問題もありました。

これらの課題を解決するために、研究チームが開発したのが熱や圧力を使わずに木材を密化させる「self-densification(本記事では自己密化と呼ぶ)」という手法です。
この方法では、まず木材から部分的にリグニン(結合剤のような成分)を取り除きます。
その後、セルロース繊維と残りのリグニンを特殊な溶剤(LiCl/DMAc)に浸します。
それらを10時間自然乾燥させると、繊維同士が自ら引き寄せ合い、高密度に再配置されます。
つまり、木材内部の繊維が自発的に動き、自然に密に並び直すことで外部圧縮を使わずに強度が増すという仕組みになっています。
では、この新しい材料は、どれほどの強度を持っているのでしょうか。