ニューロンの先端と根元が別の学習方法を行っていると判明

実験は、マウスにとってはちょっとしたミニゴルフの練習のような課題から始まります。
研究者は動物に小さな球を転がして穴に入れる作業を毎日繰り返させ、ぎこちなかった前足の動きが二週間ほどで滑らかになっていく様子を観察しました。
その間、脳の配線がどう変化するかを“現場実況”するため、マウスの頭蓋骨に小さな窓を開けて二光子顕微鏡を取り付けたのです。
この顕微鏡では、一本のニューロンの枝先から根元まで、どのシナプスがいつ働き、細胞全体がいつ“イエス!”と反応したのかを観察できるようになっています。
すると驚くべきことに、頂上付近の細い枝では「近くにあるシナプス同士が一斉に活動すれば強化される」という、“ご近所同士の結束”がカギでした。
一方、根元近くの太い枝では「ニューロン全体が発火した瞬間に活動していたシナプスだけが強くなる」という、“成功シグナルとの一致”が決定打になります。
つまり、同じニューロンでも、枝の先と根元ではまるで別世界――協調重視型と自己評価重視型という二通りの学習ルールが棲み分けられていたのです。
私たちはこれまで一本のニューロンが従う学習ルールはシナプスを繋ぐか繋がないかといった1種類のものだと考えがちでした。
しかし新たな結果は、「1本の樹のように枝を伸ばした1個のニューロン」でさえ、場所によって学習ルールがまったく異なることを示していました。
この発見は世界で初めて、一本のニューロンが“営業部”と“経理部”さながらの役割分担をして、それぞれ独自のルールブックで学習している瞬間がリアルタイムでとらえられたというわけです。