「時間の伸び縮み」を量子コンピューターの演算に利用する理論が発表
「時間の伸び縮み」を量子コンピューターの演算に利用する理論が発表 / Credit:Canva
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「時間を曲げて」量子コンピューターの演算に利用する理論が発表 (2/3)

2025.04.23 22:00:05 Wednesday

前ページ走る量子ビットで計算すると何が起こるか?

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【SFではない】時間を歪ませて計算する量子回路

【SFではない】時間を歪ませて計算する量子回路
【SFではない】時間を歪ませて計算する量子回路 / Credit:Canva

今回の論文では、「相対論的量子回路モデル(VQC)」と呼ばれる新しい計算フレームワークが具体的に提案されています。

これは、“高速で動く量子ビット(UDW量子ビット)”が、ある種の量子場と相互作用することで計算を行うというユニークな仕組みです。

時空間を動き回る複数の量子ビットが、それぞれ異なる軌道をたどることで、単一ビットを回転させる操作と、量子場を介して複数ビット間にもつれ(エンタングルメント)を生成する操作を実行します。

まず、単一ビット回転については、量子ビットが経験する“固有時間”が鍵になります。

高速で移動するビットは、静止したビットよりも時間の進み方が遅れる(特殊相対性理論の「時間延伸」)ため、その差が量子ビットの内部状態の位相(回転角度)として現れるのです。

たとえば一定速度でビットをしばらく動かすと、相対論効果によってビットの状態が別の方向に回転している――つまり、新しい「単一ビットゲート」が実現されるわけです。

次に、もつれ生成操作については、直接ビット同士を物理的につないで相互作用させるのではなく、すべてのビットが共有する量子場を介して行われます。

量子場は「真空の揺らぎ」を内部に含んでおり、それが高速で動くビット同士の情報を“橋渡し”する形で、離れたビット間に量子的な関連(エンタングルメント)をもたらすのです。

これら「単一ビット回転+量子場を通じたもつれ生成」の2ステップを何度も繰り返すことで、複雑な量子回路を組み立てられるようになっています。

こうした仕組みにより、理論上は任意の量子アルゴリズムを実行可能な「ユニバーサル(普遍的)な量子計算プラットフォーム」を作り出せると著者らは主張しています。

では本当に計算ができるのか?

研究チームはその証明として、量子フーリエ変換(QFT)の実装を試みました。

QFTは整数の素因数分解で有名なShorのアルゴリズムをはじめ、多くの量子アルゴリズムで重要な基盤となる演算です。

今回、6量子ビット(2×3の格子状に配置)で動作する回路を設計し、50層からなる回路をコンピューター上でシミュレーションしたところ、約99.6%という高い忠実度(理想的な出力と一致する確率)を達成したと報告されています。

これはわずかな誤差しか含まれておらず、「相対論的に動く量子ビットでも、従来の量子コンピューターに匹敵する精度が得られる」ことを明確に示す結果となりました。

著者の一人は、「とにかくビットが高速で動き回るので、ノイズ(量子場の揺らぎ)によって計算が乱されるのではと心配していましたが、適切な条件を設定すれば無視できる程度に抑えられるとわかりました」と述べ、技術的ハードルは思ったほど高くないと強調しています。

さらに、ゲート動作の誤差やノイズ効果を厳密に評価した解析結果も示されており、パラメータの選び方次第で、実用レベルの計算精度を十分確保できるとのこと。

実際には、各ゲート層の誤差を0.002%程度に抑えるパラメータ領域が存在し、100層を重ねても約99.8%の忠実度を維持できることが示されています。

こうした理論的裏づけとシミュレーション結果から、「相対論的量子コンピューター」は単なる思いつきではなく、実際に動作しうる有望な仕組みだといえるでしょう。

次ページ重力すら計算資源になる相対論的量子コンピューター

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