ヒトは傷の治りが遅いのか?
動物たちにとってケガは避けがたい現実です。
ほとんどの哺乳類は一生のうちに何度も皮膚が切れたり剥けたりする経験をします。
一見すると命にかかわらないような小さな傷でも、野生の世界では感染症や痛みによる動きの制限を通じて、生存や繁殖に大きな影響を与える可能性があります。
そのため、傷をできるだけ早く治すことは、動物にとって非常に重要な「進化的な適応」となっているのです。

しかし一方で、傷口の治癒には多くのエネルギーや栄養が必要でもあります。
このエネルギーは、成長や繁殖、日々の活動などにも使われるため、「傷を治すか」「それ以外の目的に資源を使うか」というトレードオフ(両立できない選択)が生じます。
その結果、動物たちは環境に応じて“最適な治癒速度”を進化の中で選び取ってきたと考えられています。
これまでの研究では、人間の傷の治癒は他の哺乳類に比べて遅いとされてきましたが、まだ正確には明らかにされていません。
そこで研究チームはヒトを含む複数の哺乳類を対象に傷の治癒速度を比較し、その謎に迫りました。