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Credit: canva
biology

ヒトの皮膚は他の哺乳類に比べて「傷の治りが3倍遅い」と判明! (2/2)

2025.05.02 12:00:48 Friday

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なぜヒトは傷口の治りが遅くなったのか?

研究チームはまず、ヒトの他に、チンパンジー、アヌビスヒヒ、サイクスモンキー、ベルベットモンキーなどの霊長類、それからラットとマウスのげっ歯類を含めた計7種を対象に、皮膚の傷がどれだけ早くふさがるかを詳細に計測しました。

非ヒト霊長類と齧歯類には人工的に標準化した小さな創傷を与え、治癒の進行を写真で定期的に記録しました。

一方で、ヒトとチンパンジーには倫理的配慮から自然発生した傷口だけを追跡し、治癒速度を測定しました。

その結果、非ヒト霊長類と齧歯類はおおむね1日あたり0.6mmの速度で傷がふさがっていくことがわかりました。

ところがこれに対し、ヒトの傷口では1日あたり0.25mmと、約3分の1のスピードでしか治癒が進まないことが明らかになったのです。

しかも、ヒトに近縁なチンパンジーでさえ他の霊長類と同等の速度で治っており、ヒトだけが例外的に遅いということが浮き彫りになりました。

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ヒトおよび4種の霊長類における傷の経過日数とふさがった長さの関係(ヒトの治癒速度は他の霊長類と比較して3倍遅い)/ Credit: 琉球大学(2025)

これはヒトの治癒遅延が霊長類共通の特性ではなく、ヒト系統で進化的に獲得された“不利な進化”の一つである可能性を示唆します。

ではなぜヒトだけがそんな代償を背負うことになったのでしょうか?

研究チームはその要因として、次の3つの可能性を指摘します。

可能性1:皮膚構造の変化

・ヒトは汗腺の発達(体温調節の進化)と引き換えに体毛が減少し、表皮が厚くなった

・そしてヒトの表皮は霊長類の3~4倍の厚さになり、傷口の修復に時間がかかるようになった

可能性2:幹細胞密度の低下

・一般的に傷口の修復は毛包幹細胞が担うが、ヒトは体毛が少ない=毛包も少ないため、 幹細胞数が減少し、傷の治癒に時間がかかるようになった

可能性3:社会的行動が遅い治癒を許容

・ヒトは他の野生動物と違って、仲間と協力して生活する社会基盤が確立されており、誰かがケガをしたら、協力して介護したり、薬草を塗布したりできる

・またその間は食事の提供や身の安全も担保されるため、傷の治癒にじっくりと時間をかけられる

ただその分だけ、人体は他の何らかの機能にエネルギーや栄養を回すことができるようになったのかもしれません。

これらはまだ仮説の域を出ていませんが、説得力のあるものとして提示されています。

今回の研究は「なぜ人間は傷の治りが遅いのか?」という謎に新たな光を当てる一歩となりました。

それは私たちの身体が、見えないところで他の哺乳類とはまったく異なる進化の道を歩んできたことを物語っています。

皮膚の治りが遅い――そのことすら、ヒトという種のユニークさを物語る進化の証なのかもしれません。

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ヒトの皮膚は他の哺乳類に比べて「傷の治りが3倍遅い」と判明! (2/2)のコメント

ゲスト

倫理的配慮をされる動物とチンパンジーの違いはどこにあるのだ…

むしろヒトのほうが言葉で同意とれば倫理的だと思うのですが

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