特殊イベント「日食」における生物の変化
私たち人間、動物、そして植物など地球上の生物は、太陽光からもたらされる規則的なパターンの中で生活しています。
毎日繰り返される昼夜、季節ごとの気候の変化などです。
そして私たちの体内時計は、その太陽光によって整えられています。
では、それらのルーティンから外れた時、生物はどのように対応するのでしょうか。

そういう意味で、日食は、太陽の光が一時的に弱まるという大きな自然の変化であり、注目すべきイベントです。
しかもそのタイミングは天文学的に正確に予測できるため、あらかじめ準備して生物の反応を見るにはとても都合がいいものです。
つまり、日食は「自然がくれる特別な実験のチャンス」だと言えます。
これまでの研究によって、日食時に一部の動物たちは行動が変化することが示唆されています。
たとえば、砂漠地域のセミたちは日食時に急に鳴き止む様子が観察されました。
同じように、動物や昆虫が日食で一時的に眠ったり、行動を止めたりするという報告が上がっています。
では、植物はどうでしょうか?

この問いに答えるため、イタリア技術研究所(IIT)の研究チームは、イタリアの森で木々の電気的な活動を記録することにしました。
「木が電気を出している?」と不思議に思うかもしれません。
実は、植物の体の中では、電気のような信号が流れていることが昔から知られています。
これは「bioelectrical signals(生体電気信号)」と呼ばれ、外の環境に変化があると、その刺激を受けて電気的に反応します。
人間でいえば、脳や神経が情報をやりとりするように、植物も体の中で情報を伝え合っているのです。
今回の研究では、特別なセンサー装置を使い、木に針のような電極をつけて、電気信号の強さやパターンの変化を記録しました。
観測されたのは、オウシュウトウヒ(またはヨーロッパトウヒ、学名: Picea abies)であり、70歳の木、20歳の若い木、古い切り株などが観察対象となりました。
では、日食の間、これら木の中で電気信号はどのように変化したのでしょうか。