手で書くことが学習や識字能力にもたらす影響とは?
読み書きのスキルは、子どもたちの言語能力や学力形成に直結する重要な能力です。
とくに「読み」は、他者とのコミュニケーション力、自己表現力、そして情報の獲得手段の根幹を担っています。

そんな識字能力の発達において、これまで多くの教育者や研究者が「書くことの重要性」を指摘してきました。
なかでも注目されてきたのが、「手書きが脳の学習プロセスを活性化させる」という仮説です。
タイピングでは単一のキー入力で文字を表現するのに対し、手書きでは一文字ごとに複雑な運動が求められるため、より多くの感覚が動員されると考えられています。
本研究では、こうした仮説をより精密に検証するため、2つの要素に焦点が当てられました。
1つ目は、「手を動かす行為そのものが学習に貢献しているのか」という点です。
2つ目は、「手書きによる文字の見た目の違いが文字の本質的な理解を促進するのか」という点でした。

研究には、スペインのバスク地方に住む平均年齢5.4歳の子どもたち50名が参加しました。
彼らはまだ読み書きを習得していない段階にあります。
まず、子どもたちは見慣れない9つの文字(アルメニア語やジョージア語など)と、それらを使って構成された2音節の造語16個を学習するよう指導されました。
その際、学習方法は4つのグループに分けられました。
自由に文字を書く「自由な手書き」、点線をなぞる「なぞり書き」、フォント1種類を用いた「単一フォントタイピング」、複数のフォントを使った「多様フォントタイピング」です。
このようにして、手を動かす効果と見た目の違いによる効果を、それぞれ独立して比較できるように設計されました。
子どもたちはそれぞれの方法で、文字と単語の形、音、つづりを練習し、その後に読み、書き、識別のテストを受けました。