五月病はなぜ起きるのか?
「五月病」は、医学的には正式な病名ではありません。
多くの場合、「適応障害」や「軽度のうつ状態」などの診断名に該当しますが、一般には新年度のスタートから1カ月ほど経った5月頃に、心身の調子を崩す状態を総称してこのように呼んでいます。
主な症状は、倦怠感、無気力、不眠、食欲低下、イライラ、不安感、そして「会社に行きたくない」「やる気が出ない」といった感情の揺らぎです。
特に新社会人や大学新入生に多く見られますが、異動したばかりの中堅社員など、環境の変化を経験したあらゆる年代に起こりえます。
背景には、「環境の急激な変化」と「その後の休息」があります。
4月は日本の年度始まり。就職、進学、転勤など、生活が大きく変わる時期です。
人は新しい環境に適応しようと無理を重ねがちで、その緊張感の中で1カ月を乗り切った直後に、GWというまとまった休みがやってきます。
この休暇で一旦心身が弛緩すると、5月に入ってから「燃え尽き感」や「現実への反発」が押し寄せ、急に疲労感や抑うつ状態が出てくるのです。
五月病は4月から新生活を始めた人の「がんばりの反動」であり、心理学的には「緊張の糸が切れた」状態ともいえるのです。
なので、4月に環境の変化を経験しなかった人には、あまりピンとこない症状でもあります。
そのため日本では社会的にも広く知られている五月病ですが、意外なことに学術的にはあまり関心を持たれておらず研究もあまり行われていません。
理由のひとつは、最初に述べた通り「五月病」があくまで俗称であり、正式な精神疾患名として扱われていないこと。もうひとつは、この現象が日本の社会構造に強く依存しており、国際的に通用する概念として扱いにくいからです。
海外では、新年度の始まりは9月(欧米)や3月(韓国)など国によって異なり、GWのように新生活直後にまとまった長期休暇が訪れるという社会的リズムはほとんど存在しません。
したがって、「新しい環境で無理をして、GWで力が抜けて、五月に調子を崩す」という日本的なサイクルは、世界的にはかなり特異なのです。
カレンダーと心の健康がこれほど密接に連動した「五月病」は、世界でもまれな現象といえるでしょう。
そのため、五月病自体に対する学術的な報告というのはあまりないのですが、五月病の特徴となる症状には、すべて有効な対処法が存在します。
この時期、気分が沈んでなかなかやる気になれない、つらい、という人は、この対処法を意識すると苦しい時期を比較的安定して乗り切れるかもしれません。