塵と化す夢――ダイソン球の運命と教訓

これらの結果が示すのは、たとえ恒星を囲む壮大なメガ構造を築けるほど技術が発達した文明でも、その維持には絶え間ない管理が欠かせないという厳しい現実です。
ラクキー氏は論文の中で「一見するとメガスウォームは不変で無敵な永久構造にも思えるかもしれないが、積極的な維持管理なしには長持ちしない」と述べています。
重力や輻射による摂動を完全に封じ込める方法はなく、放置すれば軌道が重なって衛星同士が衝突し、やがて全体が粉砕されてしまうからです。
そのため超高度文明がダイソン球を運用し続けるには、軌道空間を徹底的に制御し、壊れた衛星を修理・交換し続ける必要があります。
そこまでの労力を長期間にわたり文明全体で支えられるかどうか、社会的・政治的にも大きな課題になるでしょう。
(※AIによるパネル間距離の自動制御などの仕組みも管理維持においては重要になるでしょう。)
もしそうした努力を惜しめば、結局「塵と化す」未来を迎えてしまうかもしれません。
今回の研究は、「なぜダイソン球が見つからないのか」という問いに対する一つの答えを与えているとも言えます。
構想としては合理的に見えるダイソン球でも、長期的には崩壊リスクが極めて高いため、積極的に維持されていなければ観測される間もなく消えてしまうのかもしれません。
もちろん論文では衝突回避策も検討されており、自己修復・自己複製可能な衛星群や軌道清掃のアイデアなども提案されています。
しかしどれも実行には困難が伴い、恒星スケールのプロジェクトを維持するのがいかに難しいかが改めて浮き彫りになりました。
私たち人類が将来、太陽系規模のエネルギー計画に乗り出すなら、こうした研究から得られる教訓はとても大きいです。
いつか宇宙にソーラーパネルを敷き詰める日は来るのでしょうか。
そのときは「ダイソン球崩壊シンドローム」を防ぐために、壮大な維持管理システムの構築が不可欠になるはずです。
スペースオペラが好きな人間としては人類の技術を超えていてダイソン球を作ろうという文明がエネルギーフィールドによる物理障壁や重力制御技術を持っていないはずがないので、人工衛星同士の衝突って問題ではないと思うんですよ。