血縁関係のない仲間も助けていた
チームは、この発見が人間の医療行動の進化的ルーツを考える上で非常に重要だと指摘しています。
人類が本格的な医療システムを築く以前から、霊長類の祖先は自らや仲間の健康状態を認識し、対処していたのかもしれません。
論文では親兄弟だけではなく、血縁的に遠い仲間たちにもケアを施す行動が特に注目されました。
7件の仲間へのケアのうち4件は血縁関係のない相手へのケアで、2件は人間がしかけた罠にかかった仲間を助ける行動でした。
これは「利他行動」が進化してきた証拠の1つと考えられています。
特にソンソ群では母娘ペアや兄弟間、さらにはオスからメス、メスからオスへのケアも見られ、性別や年齢、血縁に関係なく行われていました。
使用された植物の多くは、ヒトの伝統医学でも傷の治療や皮膚病、感染症の治療に利用されている種類であり、チンパンジーが経験則に基づいて植物を選択している可能性が示唆されています。
こうした行動は単なる偶然ではなく、学習や経験の蓄積によるものであるとチームは考えています。
特に重症の場合は植物を使う傾向が見られ、単なる舌なめや指なめによる物理的清掃と、薬効を期待した植物の併用という高度な判断が存在している可能性があります。

今回の研究は、野生のチンパンジーが人間に似た医療文化の萌芽を持っていることを初めて本格的に示した貴重な成果です。
この行動は人間の医療行動の起源を探るだけでなく、動物たちの認知能力や社会性の奥深さをも浮き彫りにしています。
人類の医療のルーツは、遠い祖先が森の中で仲間の傷に植物をそっと塗ってあげた瞬間から始まったのかもしれません。
今後もこの分野の研究が進むことで、「治すこと」「助けること」という行動の進化がどのように形成されてきたのかがさらに明らかになることでしょう。
一方人間は他者を助けることをやめようとしていた。