呼吸術は脳活動を同期させ「集中と記憶」を容易にする
呼吸術は脳活動を同期させ「集中と記憶」を容易にする / Credit:clip studio . 川勝康弘
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呼吸術は脳活動を同期させ「集中と記憶」を容易にする (3/3)

2025.05.27 22:00:47 Tuesday

前ページ深呼吸一つで脳が覚醒する――最新研究が示す呼吸術の科学

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“脳メトロノーム”としての呼吸——応用は瞑想から仕事術まで

“脳メトロノーム”としての呼吸——応用は瞑想から仕事術まで
“脳メトロノーム”としての呼吸——応用は瞑想から仕事術まで / Credit:clip studio . 川勝康弘

呼吸によって引き起こされるこの「脳のグローバル同期現象」は、どのような意義を持つのでしょうか。

筆者らは論文内で、「吸う・吐く」という呼吸のリズムが進化を通じて脳内ネットワークの機能を形作ってきた可能性に言及しています。

呼吸は生命維持に不可欠な根源的リズムであり、種を超えて存在する現象です。

そのリズムが全身に影響を及ぼすよう生物は設計されてきたと考えれば、脳も例外ではありません。

呼吸によるリズム信号は、全脳に一種のタイミング基準(グローバルな拍子)を与えることで、各部位の活動を協調させる役割を果たしているのかもしれません。

例えば、危険を察知して呼吸が荒く速くなれば、脳の複数領域が同じ速いテンポで連動して働き、瞬時に戦闘モードへと切り替わる。

一方、安静時にはゆっくりした呼吸が脳全体を落ち着いたペースに揃え、記憶の整理や休息に適した状態を作り出す、といった具合です。

この仮説は、呼吸が感情や認知に与える影響とも合致します。

総説によれば、呼吸と脳機能の関連を突き止めるエビデンスは既に数多く揃っていますが、「それが行動や認知、情動のどのような変化につながるのか解明することが今後の課題だ」と著者のトート博士も述べています。

しかし一方で、応用の可能性も見えてきました。

たとえば2016年の研究では、呼吸に意識的に注意を向けるマインドフルネス呼吸瞑想によって扁桃体と前頭前野の結びつきが強まり、情動コントロールが向上することが報告されています。

これは不安やストレスを感じた際に「深呼吸すると落ち着く」といった経験則を裏付ける神経基盤と言えるでしょう。

また、呼吸が脳の広範囲を同期させ認知機能を高めるのであれば、仕事や勉強の前に数分間の呼吸エクササイズを行うことで集中力や記憶力をブーストできる可能性も考えられます。

事実、前述のゼラノ氏らの研究では鼻からの吸息時に認知性能が向上することが示されており、鼻呼吸を意識することで脳の情報処理効率を高められるかもしれません。

総説のタイトルにある「グローバル(全球的)な協調」という言葉どおり、呼吸は脳全体の協奏を司る指揮者のような存在だという視点が、今や現実味を帯びています。

普段は意識しない呼吸ですが、そのリズムに耳を傾け制御することが、脳を最適な状態にチューニングする鍵になるかもしれません。

科学者たちは今後、呼吸による脳同期が具体的に集中力や創造性、メンタルヘルスにどう活かせるかを解き明かしていくでしょう。

もしかすると、「全集中の呼吸」はフィクションの中だけの奇想天外な技ではなく、科学が認めつつある脳と体を繋ぐ自然のメカニズムなのかもしれません。

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