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キスで「うつ」がうつる? 口腔細菌が夫婦の気分を同期させるかもしれない (2/3)

2025.05.28 18:00:41 Wednesday

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キスで気分が細菌と一緒にコピーされる

キスで気分が細菌と一緒にコピーされる
キスで気分が細菌と一緒にコピーされる / Credit:clip studio . 川勝康弘

親密な相手から細菌叢をもらうと、気分まで同調してしまうのでしょうか。

謎を解明するため、研究者たちはまず新婚の夫婦1,740組を対象にスクリーニングを行い、その中から「一方のパートナーが自己評価テスト(BDI-II:21項目の抑うつ自己評価テスト、BAI:21項目の不安自己評価テスト)で中程度の抑うつ・不安スコアを示し、不眠も併発している(以下、DA表現型と呼びます)、もう一方がメンタル面で健康」という組み合わせの夫婦268組を選び出しました。

選ばれたカップルは結婚から平均6か月ほど経過しており、全員が同居しています。

この半年追跡の観察研究(実質的には前向き観察コホート)では、一方を“健康な配偶者群”268名、他方を“DA表現型の配偶者群”268名として解析を行いました。

研究開始時(結婚約半年時点)と6か月後(結婚約1年時点)の2回にわたり、両者の抑うつ度(BDI-II)、不安度(BAI)、睡眠の質(PSQI:0~21点で評価)、唾液中のコルチゾール値、そして口腔内細菌叢の構成を測定しています。

その結果、当初はメンタルが健康だった配偶者の指標に明らかな悪化が認められました。

うつ・不安のスコアや睡眠の質がいずれも悪化し、6か月後には症状を持つパートナー(DA表現型)に近づいていたのです。

特に唾液コルチゾールの変動が顕著で、健康だった配偶者の平均コルチゾール値は10.4 ng/mLから17.5 ng/mLへと有意に増加しました。

一方、DA表現型の配偶者はもともと39 ng/mLほどと高く、6か月後にも39 ng/mL前後で統計的に有意な変化は見られませんでした。

さらに注目すべきは口腔内の細菌構成です。

健康群の口腔細菌叢が大きく変化し、パートナー(DA表現型)の口腔内環境に似通っていきました。

言い換えれば、半年間の共同生活を通じて夫婦のお口の微生物コミュニティが“クローン化”のように近づいた形です。

実際、片方がDA表現型であるカップルでは、もともと健康だった配偶者の口内フローラがパートナーのフローラを鏡のように反映する現象が確認されました。

この細菌叢の変化はストレスホルモンである唾液コルチゾールの動きや抑うつ・不安のスコア悪化と明確に連動し、統計的にも有意な相関を示しています。

メインの結果としては、DA表現型の口腔内においてクロストリジア類(Clostridia)、ベイヨネラ属(Veillonella)、バチルス属(Bacillus)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)といった菌が健康群より顕著に多く検出されました。

そして重要なのは、こうした菌がパートナーの健康だった口の中にも増えていたことです。

一方で、不眠の重症度との相関解析では、フソバクテリア(Fusobacteria)など別の菌群も関連が示唆され、総じて口腔内細菌の多様な変化が見られました。

これらの細菌は脳機能や免疫系への影響が指摘されていますが、論文では「blood–brain barrier(血液脳関門)を直接損なう可能性」など、あくまでも仮説ベースであり、確定的に断言する段階ではありません。

さらに女性配偶者のほうが男性よりも細菌叢の変化やメンタル指標の悪化が大きかった点も興味深いです。

健康だった側のコルチゾール値が急上昇したことは、パートナーの不調に引きずられる形でストレスが活性化した可能性を示唆します。

こうした結果は「相手の落ち込んだ気分を感情面だけでなく生物学的にも共有してしまう」シナリオを支持しますが、因果関係までは断定できないため、慎重な解釈が必要です。

次ページ“愛のキス”は薬か毒か──見えてきたメカニズム

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