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health

キスで「うつ」がうつる? 口腔細菌が夫婦の気分を同期させるかもしれない (3/3)

2025.05.28 18:00:41 Wednesday

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“愛のキス”は薬か毒か──見えてきたメカニズム

“愛のキス”は薬か毒か──見えてきたメカニズム
“愛のキス”は薬か毒か──見えてきたメカニズム / Credit:clip studio . 川勝康弘

1つ目の考えられるメカニズムは、口腔内マイクロバイオームと脳をつなぐ経路です。

論文中では「血液脳関門(脳を守るバリア)の働きを 直接ゆるめてしまう可能性がある(may directly compromise the blood–brain barrier)」と仮説が提示されています

口内で増殖した一部の菌が産生する物質や炎症シグナルが血流に乗って全身に巡り、脳のバリアを突破して神経系に干渉する可能性があるというわけです。

(※ただこれは現段階では仮説であり十分に検証されていません)

2つ目は、口から腸へと至る「口腔—腸—脳軸」と呼ばれるネットワークを通じて神経伝達や免疫調整に影響し、間接的に脳機能を変化させるシナリオも考えられます。

今回検出されたクロストリジア類やラクノスピラ科の菌は腸内細菌としても知られ、短鎖脂肪酸など神経伝達や免疫に影響する代謝物を放出することがあります。

そうした物質が増えることで脳内の神経伝達物質のバランスが乱れたり、慢性的な炎症が脳にダメージを与えたりして、結果的に抑うつや不安を誘発する可能性があるのです。

しかし一方で、「ニワトリが先か卵が先か」の問題も残ります。

つまり、細菌が気分を落ち込ませたのか、それともパートナーの不調に伴うストレス環境が細菌叢まで乱したのか、因果関係はまだ断定できません。

日々身近な相手のケアに追われることで生活リズムが崩れたり、心理的ストレスが増えたりすれば、それ自体がうつ悪化の一因になりえますし、ストレスホルモンの増加は体内の微生物バランスを変えてしまうことも十分ありえます。

論文でも「キスによって本当にうつや不安傾向が伝播したのかどうかを断定するには、さらなる検証が不可欠だ」と強調しています。

今後、介入試験などで細菌叢を意図的に操作することで気分が改善・悪化するのか検証できれば、因果の有無が明らかになるでしょう。

それでも今回の知見は、パーソナライズド医療(個別化医療)や予防医学の観点から興味深い可能性を示唆しています。

もしパートナー間の微生物伝播がメンタルヘルスに影響するのであれば、今後は心の健康管理に「細菌」の視点を組み込む必要が出てくるかもしれません。

たとえば、うつ病の治療や予防において本人だけでなく家族ぐるみで生活習慣や口腔ケアに取り組んだり、プロバイオティクス(善玉菌)による介入を検討したりといった、新たなアプローチが考えられます。

何より、この研究から浮かび上がるのは「結婚相手を選ぶ」ということは「その人の細菌叢を選ぶ」ことでもあるというユニークな視点です。

人生のパートナーを選ぶとは、実は相手の体内に棲む無数の微生物たちも含めて受け入れることだ――そんな風に考えると、日々のキスの意味が少し違って見えてくるのではないでしょうか。

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キスで「うつ」がうつる? 口腔細菌が夫婦の気分を同期させるかもしれない (3/3)のコメント

ゲスト

何故この手のやつでは悪い(とされている)ものばかりが相手に移るのか…。
逆の展開はないのかと。

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