口の中の小宇宙が、脳までも揺らす

近年、口腔内の細菌叢(マイクロバイオーム)の乱れが、自閉症や認知症、パーキンソン病から不安・抑うつ状態に至るまで、さまざまな神経・精神疾患と関連していると報告されています。
実際、BDI-II(21項目の抑うつ自己評価テスト)などの臨床評価で「中程度のうつ傾向」が確認された若年成人では、特定の口腔内細菌が増減しているという研究もあり、Prevotella nigrescensやNeisseria属など一部の菌が増えていたとの報告があります。
また、口腔内の細菌叢は歯磨きや食習慣、喫煙など個人のライフスタイルによって大きく変動します。
こうした知見から、「お口の中の微生物が私たちのメンタルヘルスに影響を及ぼすのではないか」という考えが注目され始めています。
一方で、夫婦や家族など親密な関係にある人同士は、驚くほど生理的リズムが同期(シンクロ)することが知られています。
たとえば夫婦では、心拍数や睡眠パターン、ストレスホルモン(コルチゾール)の日内リズムまでも似通ってくるという報告があります。
人と人は感情を共有するだけでなく、生理的なリズムやホルモン分泌までも影響を与え合う可能性があるのです。
その一因として近年注目されているのが、キスや食事の共有などを介して起こる体内細菌の伝播です。
そこで研究チームは、新婚カップルを対象に「半年間の追跡観察」を行い、口腔内細菌の変化とうつ・不安症状(自己記入式のスコアが示す中程度の不調)がどのように関連するかを調べることにしました。
「ふたりが親しく暮らすうちに口の中の細菌がうつり、それが気分まで似てくるのでは?」という予測は正しかったのでしょうか?