オーガズムで色を見るための「条件」とは?

性的共感覚とは、本当に脳の神経が絡み合っただけの偶然の産物なのでしょうか、それとも人の感情や意識と深く結びついているのでしょうか?
この謎を解明するため、研究者たちはまず「性的共感覚を持つ人」を探すことからスタートしました。
SNSなどを通じて広く呼びかけを行った結果、「性的共感覚を経験したことがある」と自ら申し出てくれた16名(女性15名、男性1名)が集まりました。
一方、比較対象として、同年代・同性で性的共感覚を持たない11名(女性9名、男性2名)にも協力をお願いしました。
参加者は全員、薬物を使っていないことや神経疾患、トラウマ障害がないことを事前に確認し、共感覚が純粋に脳の自然な現象であることを保証しました。
また、性的共感覚を持つと答えた人には、文字や音などに色を感じるといった一般的な共感覚を元々持っているかどうかも確かめました。
次に研究チームは、参加者ひとりひとりとじっくりインタビューを行いました。
ここでは主に、性的な場面でどんな体験をしているかを詳しく尋ねています。
さらに日常生活の中で、ほかにも不思議な感覚や、現実感が薄れてしまうような解離体験があるかどうかも質問しました。
加えて、性的共感覚を持つ人がセックス以外にどんな場面で共感覚を感じるか(例えば音楽を聞いたときなど)や、セックスにおける満足感や意識の変化がどれくらい大きいかを、専門的な質問紙を使って数値として評価しました。
その結果、性的共感覚を持つと申し出た16人のうち15人が「オーガズム時に鮮やかな色や光、模様、幻想的なイメージが視界いっぱいに広がる」と報告しました。
1人だけは視覚的な映像ではなく、「自分が体から抜け出したような奇妙な感覚」を経験していました。
多くの人が「まるで目を閉じたまま虹を見ているようだ」「カラフルな光がシャワーのように降り注ぐ」「宇宙や海の中に溶け込んでいく感覚」といった驚くべき体験を語っています。
中には、自分の体が巨大化したり、あるいは完全に消えてしまったかのような錯覚、さらには時間が止まったかのように感じることもあったそうです。
ただし、こうした特別な体験は毎回起こるわけではなく、特定の条件が揃ったときだけ訪れる一時的な現象であることがわかりました。
さらに興味深いのは、こうした特殊な体験が起こる条件です。
多くの参加者が「身体的な刺激だけでは色や映像は現れない」と述べており、実際には相手への強い愛情や信頼、深い安心感、そしてリラックスして完全に集中している状態で初めて共感覚が現れるということでした。
逆に、心のつながりが薄いと感じる状況では、ほとんど何も起こらないと答えた人が多かったのです。
また初めて性的な体験をした際には性的共感覚を感じた人もいませんでした。
つまり、性的共感覚は最初の性的経験から直ちに起きる現象ではなく、ある程度の性的経験を経て、感情的な条件が揃った状態で後天的に出現する可能性があったのです。
一方、性的共感覚を持たない人たちでは、このような特殊な視覚的体験や強烈な意識変化を感じることはほぼありませんでした。
ごくまれに幽体離脱のような経験をしたと報告した人が1名だけいましたが、これは不安やストレスが高まった極めて特殊な状況での例外的な体験だったとのことです。
また性的共感覚を持つ人々は、性的な場面以外でも日常的に似たような感覚を味わうことがありました。
たとえば音楽を深く聴き込んだとき、瞑想中、出産のとき、あるいは失恋など強い感情が動いた瞬間にも、色や映像が浮かぶことがあると語りました。
こうした現象は毎日のように起きるわけではありませんが、年に数回から月に数回のペースで訪れる人もいて、その頻度や強さは人それぞれでした。
研究者たちは、これらの体験が薬物や精神疾患の影響を受けていないことを慎重に確認しています。
つまり、ここで見られた共感覚や強い意識変容は、まさに本人の脳が自発的に作り出した『純粋な体験』であることが裏付けられたのです。
そして、性的共感覚を経験する人たちは、ほぼ全員が「これによって性的な快感がとても強く深くなった」と話しています。
彼らにとってこの不思議な感覚体験は、性的な喜びを一層引き立てる『脳が生み出す極上のスパイス』のような存在になっているようです。