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怒りを動機として寄付をする「報復的慈善活動」 / Credit:Canva
psychology

怒りで寄付をする「報復的慈善活動」とは

2025.07.09 06:30:43 Wednesday

私たちの多くは、「少しでも助けになりたい」と考えて寄付を行います。

貧困や病気に苦しむ人々、自然災害で被害を受けた地域、あるいは環境保護や人権活動など、さまざまな目的で「善意」に基づく寄付が世界中で行われています。

しかし、最近の研究が、この「善意」という前提に一石を投じました。

カナダのウェスタン大学(Western University)の研究チームは、寄付行動に「怒り」や「報復」という、従来の「利他的な社会的行動」とは対極の感情が深く関わる新たな形態を報告しました。

彼らは、この寄付行動を「Retributive Philanthropy(本記事では報復的慈善活動と呼ぶ)」と名付けています。

この研究成果は、2025年2月6日付で『Journal of Marketing Research』誌に掲載されました。

Giving back or getting back? The rise of retributive philanthropy https://phys.org/news/2025-07-retributive-philanthropy.html
Retributive Philanthropy https://doi.org/10.1177/00222437251320021

善意の寄付だけではない?「怒り」から生まれる新しい動機とは?

寄付とは一般に、他者の利益や社会の福祉を考えた「善意の行動」とされてきました。

また「自分の利益」を考えて寄付を行う場合もあるでしょう。

これまでの研究でも、寄付の動機は「共感」や「感謝」、「自分のイメージ向上」や「税制優遇」など、利他的・自己利益的な理由に分類されていました。

しかし、2016年のアメリカ大統領選の結果を受けて起こったある出来事が、研究者たちの目を引きます。

副大統領に当選したマイク・ペンス氏は、妊娠中絶に反対する強硬な姿勢で知られていました。

ところがその直後、なんと8万件を超える寄付が、彼の名義で中絶支援団体「Planned Parenthood」へと行われたのです。

結果として、ペンス氏の自宅には、「マイク・ペンスさん、ありがとうございます」と書かれた寄付通知が大量に届くことになりました。

つまり、寄付を行った人々は、政治的・道徳的抗議として寄付を使ったのでした。

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人々は副大統領の姿勢に抗議するために、怒りの気持ちから寄付をした / Credit:Canva

これが、ミルン氏らが着目した「報復的慈善活動」の出発点となりました。

研究チームはこの行動の動機や仕組みを明らかにするため、まずインタビューを実施しました。

報復的寄付を行った人物や、その対象となった人々への聞き取りを通じて、共通する3つの動機を見出しました。

  1. 寄付対象(つまり攻撃対象)への強い道徳的非難(悪意ある不正行為の認識)
  2. 怒り・嫌悪・軽蔑といった強烈な感情の発生
  3. 相手にダメージを与えるという罰の意図

次にチームは、より広範な実社会のデータを使ってこの仮説を検証しました。

2022年、カナダで発生した「フリーダム・コンボイ」(ワクチン義務化に反対するトラック運転手による抗議運動)において、支援団体への寄付が急増。

ところが政府の介入により、クラウドファンディングサイト「GoFundMe」でのキャンペーンが強制停止されました。

その直後、寄付者たちは新たなプラットフォーム「GiveSendGo」に移行し、短期間で数百万ドル規模の寄付が集まりました。

この寄付データ10万件超を分析したところ、「GoFundMe」や政府に対する怒りのコメントを書いた寄付者は、他の人より平均23ドルも多く寄付していたことが分かりました。

怒りの表現(「裏切り」「検閲」「腐敗」など)を含む投稿の多くが「モラルに反する抑圧」として認識されており、ここにも「報復」の意図が明確に表れていました。

この2つの初期研究によって、「怒り」や「道徳的違反の認識」が寄付動機となる現象が、定性的・定量的に裏付けられたのです。

次ページ人はなぜ、「罰したいから寄付する」のか?

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