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「もつれ電池」は量子もつれの注入と蓄積ができる (2/3)

2025.07.08 17:40:57 Tuesday

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もつれ電池が動くことで量子力学版の熱力学第二法則が確認された

もつれ電池が動くことで量子力学版の熱力学第二法則が確認された
もつれ電池が動くことで量子力学版の熱力学第二法則が確認された / Credit:Canva

「もつれ電池」を用いることで、本当に量子もつれを自由自在に元通りに戻すことができるのでしょうか?

また、それを理論的にどのようにして証明したのでしょうか?

この疑問に答えるために、研究チームは次のような理論的な思考実験を行いました。

ここではまず、「量子情報の世界でよく登場する二人の架空の人物、アリスとボブ」が登場します。

彼らは遠く離れた別々の場所にいて、それぞれが自分の手元に「量子ビット」と呼ばれる量子情報の基本単位を持っています。

この量子ビット同士が「量子もつれ」の状態にあり、アリスとボブの間には、この「もつれ」によって量子情報が強力につながっている状態になっているのです。

ただ両者の間にある量子的繋がりは「理想状態」ではなく消費すれば消えてしまう「現実的」なものとします。

ただし2人は追加の共有資源として「もつれ電池」を用意し、その内部に一定のもつれ(相関)量を蓄えた初期バッテリー状態を準備します。

次に両者は自分たちの持つ初期状態を目標とする別のもつれ状態へ変換することを試みました。

同時に、上記のもつれ電池から相関を「借りたり返したりする」ことが許されます。

量子もつれAを消費して無くしてしまうのではなく、別の量子もつれBに変換し、その量子もつれBをもつれ電池に返し、そして2人の元に再び新たな量子もつれAが届けられるというサイクルを行うわけです。

すると非常に興味深い結果が得られました。

もつれの変換後、バッテリーには当初と同じかそれ以上のもつれが蓄えられていたのです。

さらに重要なのはある状態Aから別の状態Bへの変換を行ったあと、同じ手順を逆向き(BからAへ)に適用してもらえば、一切のロスなく元の状態に戻せることがわかりました。

実際、研究チームは数学的に状態Aが状態Bへ変換可能であり、かつ逆変換も可能であるための必要十分条件が「状態Aの量子もつれの大きさE(A)が状態Bの量子もつれの大きさE(B)以上であること「(E(A) ≧E(B」)」を示しました。

Eは量子もつれの「大きさ」を測る指標のようなもので、古典熱力学におけるエントロピーに相当するものです。

ここで注目すべきなのは量子もつれの大きさを示す(E(a) ≧E(b)の間にイコールがあることです。

研究者たちが示したのは、「変換前のもつれ量が変換後のもつれ量よりも多い(または同じ)ならば、変換は必ず可能であり、逆方向の変換も必ず可能である」という非常に明快な条件でした。

この結果は「量子もつれは、操作の過程で量子もつれの総量が減少しない」という、いわば量子世界の「第二法則」という新たな普遍的法則があることを示しています。

先にも述べたように通常の熱力学第二法則ではエントロピー増大の法則であり、「エネルギーの総量」は変化しなくても、エネルギーの「質」は常に劣化し、使いやすい形から使いにくい形(乱雑な状態)へ一方通行的に変化してしまうことを指し示します。

同様にこれまで量子もつれの操作は「一度変換したら元に戻らない」不可逆的なプロセスとして、熱力学第二法則のもつ性質(エントロピーの不可逆な増加)とよく似た挙動をしていました。

しかし今回の研究では「もつれ電池」を導入することで、このような従来の不可逆性が完全に克服され、「量子もつれが決して失われない完全可逆な変換」が可能であることが示されました。

つまり、「もつれ電池」という新たな枠組みを用いると、量子もつれの変換が理想的でエントロピーが増加しない、完全に可逆なサイクルを構築できるという意味で、熱力学の第二法則に対応するような「量子版第二法則」が成り立つわけです。

言い換えれば、量子もつれはこれまで第二法則のような不可逆な性質を持つと考えられていましたが、今回のもつれ電池の導入によって、その不可逆性が覆され、量子版の理想的「第二法則的プロセス」を実現できたという意味になります。

また「もつれ電池」という概念が正常に稼働した点も、非常に重要です。

もつれ電池がもし実現できれば、法則の発見という理論の世界を超えて工学的に非常に価値があるものになり得るからです。

さらに研究チームは、この量子もつれ変換を複数セットの量子状態に同時に適用する場合の効率(つまり、目的の状態がどれくらい得られるかの比率)についても理論的に検討しました。

その結果、この変換効率が初期状態と目的の状態の「量子もつれ量の比」によって正確に決まることが判明しました。

例えば、最初の量子もつれ状態が目的のもつれ状態のちょうど2倍の強さを持っている場合、理論上はちょうど2倍の効率で変換できることになります。

これは、熱力学の世界で最も効率の良いエネルギー変換として知られる「カルノーサイクル」によく似た理想的な量子版の変換サイクルが存在することを意味しています。

こうして、今回の理論研究によって、もつれ電池を介すれば量子もつれを一切無駄なく完全に使い回すことが可能だという画期的な結論が導かれました。

しかしここで新たな疑問が生まれます。

理論上は完璧に見えるこの「もつれ電池」を、実際の実験室で物理的な装置として作り出すことは果たして可能なのでしょうか?

また、その理論的に予測された美しい可逆変換を、現実に観察することが本当にできるのでしょうか?

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