ナチス将校が持ち去った「官能的なモザイク画」
問題のモザイク画は、トラバーチン(石灰岩)に描かれた約20センチ四方のパネルで、紀元前1世紀から紀元1世紀ごろにかけて制作されたと推定されています。
上半身裸の男性が寝台に横たわり、臀部(でんぶ)をあらわにした女性が背中を向けているという描写は、まさに「ローマの家庭内の愛」を象徴するものです。
このようなモザイク画は、かつての古代ローマの邸宅や別荘の寝室の床に埋め込まれていたとされ、装飾であると同時に、愛や性愛が日常生活に根ざしていたことを物語っています。

しかし第二次世界大戦の混乱の中、このモザイク画はあるナチスの将校の手に渡ります。
彼は当時、イタリアで軍需補給を担当していたヴェアマハト(ドイツ国防軍)の大尉であり、モザイク画を「贈り物」として持ち去ったとされています。
その後、この作品はドイツに渡り、将校から受け取った民間人の家に秘蔵されることになります。
美術館にも展示されず、学術記録にも載らず、誰にも知られずに眠っていたのです。