「気候移住」という新しい選択肢――世界初の国家移住条約
2023年、ツバル政府とオーストラリア政府の間で締結された「ファレピリ連携条約(Australia-Tuvalu Falepili Union)」は、世界で初めて、気候変動を理由に「国家全体」の移住を合法的に保障する制度となりました。
この条約により、ツバル国民は年間280人ずつ、抽選によってオーストラリアへ移住できる道が開かれました。
移住者には教育・医療・就労の権利がオーストラリア国民と同等に与えられ、条件を満たせば市民権の取得も可能です。
また、ビザの保有者に移住の義務はなく、自由に帰国することも認められています。

最初の抽選受付は2025年6月16日に開始し、7月18日に締め切られました。
オーストラリア政府の発表によると、すでに5100人以上―ツバル国民の半数が応募しており、この移住計画への関心と切実さが浮き彫りとなりました。
しかしこの制度には課題もあります。
年間280人という上限では、仮にフルで移住が続いたとしても全員の移動には数十年を要します。
またツバルの人口が減り続ければ、国家としての存続――政治的独立、文化、国際的認知などが失われる可能性もあります。
ツバルの事例は、私たちに新たな問いを突きつけています。
「国家とは土地に根ざしたものなのか、それとも人々と文化こそが国家なのか」という根源的な問題です。
もしもツバル国民の大半が移住し、国土が海に沈んだとしても、ツバルという「国」は存在し続けられるのでしょうか?
この問いに世界がどう答えるかは、今後の気候変動時代における国際社会のあり方そのものを左右するかもしれません。
言葉が生き続ける限りは文化も死にはしないでしょう。