AIは正しい医療アドバイスができない
臭素中毒は、かつて市販薬に臭化物塩が広く含まれていた時代にはよく見られ、精神科入院の最大8%に関与していたと推計されます。
しかし1975〜1989年に米FDAが臭化物の使用を廃止して以降は急減しました。
それでも近年、サプリや臭化物含有の鎮静薬、デキストロメトルファン過剰摂取などによる症例報告が再浮上しています。
今回の症例では、検査法も診断を難しくしました。
多くの施設で用いられるイオン選択電極法(ISE)は、臭化物が高濃度に存在するとクロールが高く“見える”(偽性高クロール血症)ことが知られています。
確定にはICP-MSによる臭化物の直接測定が有用です。

そして見逃せないのがAIの限界です。
著者らが再現的にChatGPTへ「塩化物の代替」を尋ねたところ、回答に臭化物が含まれていました。
健康上の具体的警告や意図確認はなく、医療専門家なら言及しない可能性が高い選択肢が“提案”されていたのです。
AIは情報アクセスの橋渡しとして期待される一方で、文脈を欠いた助言が誤用・過量摂取を招くリスクがあります。
医療者側も、患者がどこから健康情報を得ているのかを丁寧に確認する必要があります。
幸い、臭素中毒は摂取中止と適切な治療で可逆的です。
今回も生理食塩水による利尿などで改善しました。
男性は経過中、顔面のにきび、倦怠感、不眠、軽度の運動失調、多飲といった所見も示し、教科書的な症状の組み合わせが最終的な確信につながりました。
AIは現代の情報社会において強力な相棒になり得ますが、専門家の判断を置き換えるものではありません。
特に摂取・投与に直結する助言は、一見“もっともらしく”ても取り返しのつかない結果を招くことがあります。
健康に関わる疑問は、まず医療専門職に相談し、AIの回答は裏どりをしてから取り入れる——この当たり前を、もう一度徹底したいところです。