純酸素を使わない「素の息止め」の最長記録は?
純酸素を使った記録挑戦は一見「ズル」のように思えるかもしれません。
しかし、この技術は映画撮影でも俳優が長時間水中に留まるために利用されるほど現実的な方法で、フリーダイビングの安全性研究ともつながっています。
酸素を多く取り込むことで二酸化炭素の蓄積が遅れ、「息をしたい」という欲求が抑えられます。
そのため酸素濃度が危険域に落ちるまでの時間――いわゆる「安全な無呼吸時間」を大幅に延長できるのです。
とはいえ、ただ酸素を吸うだけで30分近く息を止められるわけではありません。
必要なのは高度に制御された横隔膜呼吸、心拍数を下げるための深いリラクゼーション、そして何より強靭な精神的集中力です。

マリチッチ氏はこれらを完璧に組み合わせることで、人間離れした時間を達成しました。
ちなみに、純酸素を使わない「素の息止め」の世界記録は2013年にフランスのステファン・ミスフド氏が樹立した11分35秒で、翌年にはセルビアのブランコ・ペトロヴィッチ氏がギネス記録として11分54秒を記録しています。
マリチッチ氏自身も素の息止めで10分8秒に成功しており、今回の記録が単なる酸素頼りではなく、彼の基礎的な実力の高さに裏付けられていることが分かります。
「人間はどこまで自分の限界を伸ばせるのか」
マリチッチ氏の挑戦は、その問いに対する驚きの答えを提示しました。
平均的な人間が息を止められるのは30秒から90秒程度ですが、彼はその20倍以上もの時間を水中で生き抜いたのです。
今回の挑戦は単なる記録更新にとどまらず、呼吸の科学や人間の可能性、さらには海洋保護への関心を広める一歩にもなっています。
人間のままでもそれだけ止められるのなら人類も海に帰ることは十分できそうですね。