努力では解決できないADHDの“脳のちがい”が見えてきた
TS法を用いた今回の研究では、ADHDの子どもたちとそうでない子どもたちの脳を、これまでにない精度で比べることができました。
その結果、ADHDの子どもたちの脳には、実際につくりの違いがあることがはっきり示されました。
特に大きな違いが見つかったのは、「中側頭回(ちゅうそくとうかい/Middle Temporal Gyrus)」という部分です。
この場所は、ものごとに注意を向けたり、情報を整理したり、感情をコントロールしたりする働きを持っています。
ADHDの子どもたちでは、この中側頭回の灰白質の体積が少し小さくなっていました。その差は統計モデルでも偶然ではないと確かめられています。
同じような傾向は、脳の前の部分である「前頭葉(ぜんとうよう/Frontal Cortex:大脳皮質の前部)」や「側頭葉(そくとうよう/Temporal Cortex:大脳皮質の側部)」にも見られました。
これらの領域は、注意や計画、気持ちの切り替えといった、人間らしい思考や行動のコントロールに深く関わっています。
ADHDの特徴的な行動や感じ方は、脳の構造の違いと結びついている可能性が高いということが、今回の研究で科学的に裏付けられました。
このように脳構造の違いが原因と言われると、「ADHDはすべて生まれつき決まっている」と考える人もいるかもしれません。
しかし脳の形や大きさには、遺伝の他に、成長過程や子ども時代の経験や環境も関係してきます。
たとえば、生活習慣やストレス、学びの機会など、さまざまな要素が脳の発達に影響を与え脳構造を変化させることはよく知られています。
このため、ADHDを「先天的な脳の病気」や「持って生まれた運命」と単純に決めつけるのは早計で、後天的に生じる可能性も十分にあるのです。
大切なのは、ADHDは努力不足や怠けで生まれるものではなく、脳そのものの特徴が関わっているという最新の科学的な視点です。
実際、今回のように脳の構造を詳しく調べる研究が進むことで、ADHDの早期発見や、一人ひとりに合ったサポートの開発も期待されています。
今後はさらに多くの子どもや大人を対象に、国や文化の違い、成長にともなう変化まで含めて調べていくことが課題となります。
脳科学の進歩によって、ADHDの理解は大きく変わろうとしています。
子どもや周りの人を「なぜできないのか」と責めるのではなく、「どうすれば力を発揮できるか」「どんなサポートができるか」を一緒に考えていくことが、これからの社会でますます重要になっていくでしょう。この研究は、そうした未来への一歩となる成果です。