Credit:canva
social-problem

大量殺人犯の年齢分布に2つの山「人生は特定の時期にストレスの危機を迎える」 (2/2)

2025.09.20 21:00:40 Saturday

前ページ大量殺人犯を年齢別に並べると生まれる“二つの山”

<

1

2

>

大量殺人から見えてくる人生の危機期

今回のレビュー研究では、大量殺人犯の年齢分布に「若年層」と「中年層」という二つの山が目立つことが改めて確認されました。

これは逆に言えば、それ以外の年齢層では大量殺人事件がきわめて少ないことを意味します。なぜこのような“谷”が生まれるのでしょうか?

この理由について、研究チームは人生の中には「安定期」と「危機期」が明確に存在している可能性を指摘しています。

たとえば、若年層では学校という場における孤立が極端なストレスになりやすく、三十代半ば以降は一旦手に入れた立場や財産の喪失・崩壊が極端なストレスになりやすくなります。

一方で、20代後半から30代半ばは、仕事や家庭など社会的な役割が安定しやすく、強い孤立感や大きな喪失体験に直面することが少なくなります。また、高齢期になると、体力や社会的活動の低下から、突発的な攻撃性や衝動行動が起こりにくくなると考えられています。

このため、心理学や社会学の観点からも「人生の危機」がピークに達しやすい特定の時期にだけ、大量殺人犯が現れやすい二峰性が見られるのだと考えられるのです。

また、今回のレビューでは、女性加害者は全体のごく一部に限られ、特に若年層にはほぼ見られず、中年層において主に家庭内で、放火・毒物などを用いた犯行が目立つという知見も示されています。

この調査はデータの多くが英語圏(とくに銃社会)に偏っていることや、「大量殺人」の定義や分類に揺れがあることなど、限界も存在します。

そのため、日本のような社会で調査を行った場合、異なる結果になる可能性があります。しかし、大量殺人事件が決して一部の特殊な人が抱える“異常な心”が起こしているわけではない可能性をこの研究は示しています。

それは人生のなかで誰もが直面しうる、孤立や喪失、絶望といった心の危機が関係しているようです。そして特定の年齢でそのリスクはピークになりやすいということが、研究データからは見えてきます。

“二つの山”は、人間社会が抱える深い課題を映す鏡です。

大量殺人という最も悲劇的な出来事の陰には、誰もが感じたことのある「居場所を求める気持ち」や「人生を守りたい思い」が、極限まで追い詰められて爆発したものかもしれません。

この研究は事件を未然に防ぐための唯一の答えを示しているわけではありませんが、人生の特定の時期に「危機」を迎える人が多いという事実は、犯罪の抑制に何が必要なのかを示すヒントになるでしょう。

身近な誰かのSOSに気づく力が、未来の悲劇を減らす小さな一歩になるかもしれません。

<

1

2

>

コメントを書く

※コメントは管理者の確認後に表示されます。

0 / 1000

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

社会問題・社会哲学のニュースsocial-problem news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!