植物と麻酔の謎、どこまでわかった?

このように麻酔薬が植物に与える影響の仕組みは、まだ完全には解明されていません。
特に、麻酔薬がどのように植物細胞の膜やタンパク質に作用しているのか、その具体的なメカニズムまでは明確になっていません。
麻酔作用の仕組みについては、人間や動物でも、神経の受容体説(麻酔薬が特定の受容体に作用するという説)と細胞膜の物理的な性質変化説(細胞膜そのものが影響されるという説)が存在し、論争が続いています。
植物においても同様で、麻酔薬が特定の受容体を介して作用しているのか、あるいは細胞膜の構造や柔軟性を変化させることにより間接的に作用しているのかが明らかになっていないのです。
今後の研究としては、遺伝子操作が容易なシロイヌナズナ(Arabidopsis)などのモデル植物を使い、麻酔薬に特異的に反応するタンパク質や膜の性質を詳しく分析する必要があります。
また、植物が自ら生成する天然の麻酔物質(エタノール、エチレンなど)についても詳しく調べることで、植物が進化の過程でなぜこれらの物質を作り出したのか、その意味や役割を明らかにできるでしょう。
さらに、植物で麻酔が効くメカニズムがより詳細に解明されれば、動物や人間の麻酔作用の基礎理解にもつながることが期待されます。
植物を使った新たな実験モデル(研究のために役立つ実験対象)としての可能性を探ることが、次の重要なステップになるでしょう。