500年前に爆沈した王国旗艦の武装が判明!
500年前に爆沈した王国旗艦の武装が判明! / Credit:川勝康弘
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500年前に爆沈した王国旗艦の武装が判明! (3/3)

2025.09.23 19:00:03 Tuesday

前ページ海底からよみがえる“火砲の時代”——中世北欧の軍艦を徹底解析

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なぜ北欧は“世界”へ出なかったのか?

なぜ北欧は“世界”へ出なかったのか?
なぜ北欧は“世界”へ出なかったのか? / グリプスフンデン号から回収された「火薬室(かやくしつ)」と呼ばれる、大砲の重要な部分をCTスキャンした画像です。CTスキャンとは、病院などでも使われる、物の内部を精密に立体的に撮影できる技術のことです。 大砲というのは、弾を撃つために火薬を使いますが、その火薬を入れる部分は当時は別の容器に分かれていました。その容器が「火薬室」です。この図のCTスキャン画像を見てみると、内部の細かな構造がはっきりと映っています。特に注目したいのは、「タッチホール(点火穴)」という部分で、火薬に火をつけるための小さな穴が画像の中央付近にしっかりと確認できます。また、火薬室の後ろ側には持ち手のような部分(ハンドル)が付いていることもわかります。 火薬室は鉄で作られていて、細長い筒状になっています。なぜこのような仕組みになっているかというと、火薬を安全かつ簡単に装填できるようにするためです。あらかじめ火薬を詰めておいた火薬室を大砲の後ろから差し込むことで、素早く次の弾を撃つことが可能になります。CTスキャンの技術を使うことで、500年以上も海の中にあって錆びついていたこの火薬室の内部の様子まで詳しく見ることができました。 さらに、火薬室の内部には火薬の成分と考えられる物質(硫黄のようなもの)が残っていることも確認されています。これは、この火薬室が船が沈む直前まで実際に使われる状態だったことを示す重要な手がかりになっています。/Credit:Late Medieval Shipboard Artillery on a Northern European Carvel: Gribshunden (1495)

今回の研究で重要なポイントは、15世紀末という「大航海時代」の幕開けに近い時期に、北欧の軍艦がどのような姿をしていたかを具体的に明らかにできたことです。

これまでは、こうした時代の軍艦や大砲についての情報は、ほとんどがスペインやポルトガルなど南ヨーロッパのを調べた結果に基づいていました。

そのため、今回のグリプスフンデン号の調査で北欧の船についての貴重な新情報が手に入ったことは、非常に画期的で意義のあることと言えます。

なぜなら、この時代のヨーロッパでは、多くの国々がアメリカ大陸やアフリカ、インド洋などの遠い土地を目指して航海に乗り出していたからです。

彼らが遠くへ進む際、カギとなったのがまさにグリプスフンデン号のような最新式の外洋船と、そこに搭載された大砲でした。

その点で、今回見つかったグリプスフンデン号のような軍艦は、世界の海に進出するための道具の一つだった可能性があります。

ところが、北欧のデンマークやノルウェーは結局、スペインやポルトガルのように世界への航海に積極的に参加しませんでした。

なぜ、この「動く城」とも呼ばれるほど強力な軍艦を持っていたにもかかわらず、彼らは世界へ出なかったのでしょうか?

実は、その理由として考えられるのが2つあります。

1つは、デンマーク=ノルウェー王国のハンス王が国内の統治を第一に考え、バルト海周辺地域での支配を固めることに力を注いでいたからです。

当時の北欧諸国は、お互いに激しく競い合っていました。

そのため、王が遠い世界への冒険よりも自国内の平和と統治を重要視したのも無理はないでしょう。

もう1つの理由は、当時のヨーロッパの状況が関係しています。

1493年に、ローマ教皇アレクサンデル6世は「インテル・カエテラ(Inter Caetera)」という特別な教皇勅書を出しました。

この勅書は新しく発見されたアメリカ大陸などの土地を、主にスペインに与えることを認める内容でした。

つまり、スペイン以外の国が勝手にアメリカ大陸に進出すれば、教会から罰を受ける恐れがありました。

こうした宗教的・政治的な制約も、北欧の国々が世界へ向けて積極的に動かなかった理由の1つだったのかもしれません。

ただ、この歴史の流れのおかげで、私たちは500年以上たった現在、非常に良い状態で保存されたグリプスフンデン号を見ることができるようになりました。

もしこの船が世界を目指して頻繁に航海を続けていたら、今のような保存状態で発見されることはなかったでしょう。

つまり、皮肉なことですが、ハンス王がこの強力な軍艦を世界への冒険に使わなかったことが、結果として私たちにとって歴史を知る大きな贈り物となったのです。

グリプスフンデン号から発見された砲床やクロスボウ(石弓)などの武器類は、現在スウェーデンのブレーキンゲ博物館で見ることができます。

さらに嬉しいことに、この船が沈んでいるスウェーデンのロネビー市では、将来的に特別な博物館を作って遺物を展示する計画も進んでいます。

また、まだ海底には調査されていない部分も多く残されているため、これから先もさらに新しい発見が待っているかもしれません。

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