500年前、国家予算の8%をかけた旗艦が爆沈

いまから約530年前の1495年、北欧にあった「デンマーク=ノルウェー連合王国」の旗艦グリプスフンデン号がスウェーデン沿岸で沈没しました。
この船は、一般的な戦争に使われた船とは異なり、「カーベル」という特殊な構造をもつ新しいタイプの船で当時としては非常に強力で大きな船でした。
この船は沈没してから500年以上も経った今も、船体や積み荷が信じられないほど良い状態でバルト海の海底に残されていました。
そのため、世界的にみても非常に珍しい「中世軍艦のタイムカプセル」と呼ばれています。
「タイムカプセル」という比喩が使われているのは、この船が当時の姿をそのままの形で保存しているからです。
この船が沈没した原因にも、非常に謎めいた点があります。
当時の記録によると、グリプスフンデン号はスウェーデンとの重要な政治会議のため航海中で、ハンス王自身は陸地に上がっていたそうです。
その間に、船が突然爆発し火災を起こして沈没したと伝えられています。
ただし、この劇的な記録にもかかわらず、実際の調査では火災が起きた痕跡が船体や遺物から全く見つかっていないという不思議な状況になっています。
またこのグリプスフンデン号は当時の北欧を代表する巨大な軍艦でしたが、その巨大さゆえに建造や装備には非常に多くのお金が必要でした。
推計によれば、1485年頃のデンマークの国家予算の約8%が、この1隻の船のために使われた可能性があると言われています。
ハンス王はこの船をまるで「海に浮かぶ城」のように扱い、船上で生活しながら自ら北欧各地を巡り、自分の支配力を見せつけていました。
実際、この船は単なる軍艦以上の役割を持ち、外交や政治、経済活動などを行う「移動式の宮殿」としても機能していました。

つまり、この船は王様が国をまとめるための「シンボル」であり、船に積まれた多数の大砲は王の権力と強さを象徴するものだったのです。
そのように歴史的に重要な役割を果たした船でしたが、沈没後は長い間忘れ去られ、海底で静かに眠っていました。
ところが近年、水中考古学という新しい学問分野の研究者たちが、この眠っていた謎に最新のテクノロジーを使って挑み始めました。
これまで、15〜16世紀初めの船の研究は主にスペインやポルトガルなど、南ヨーロッパの船に集中していました。
有名な「コロンブスの時代」や「大航海時代」の船などが代表的です。
一方、北欧地域の船の研究は非常に少なく、いわば歴史の「空白地帯」だったのです。
グリプスフンデン号の発掘調査は、その空白地帯を埋める大きな手がかりとなっています。
研究チームはこの沈没船から回収した道具や武器を詳しく分析することで、「北欧の軍艦がどれほど強力な火力を備えていたのか?」という疑問に答えようとしています。
その結果、これまで知られていなかった中世末期の船の驚くべき姿が少しずつ明らかになってきました。
歴史が好きな人だけでなく、あまり詳しくない人でもワクワクするような発見がこの研究から次々と生まれています。
いったい北欧デンマーク王国の旗艦グリプスフンデン号は、具体的にどんな武装をしていたのでしょうか?