500年前に爆沈した王国旗艦の武装が判明!
500年前に爆沈した王国旗艦の武装が判明! / Credit:川勝康弘
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500年前に爆沈した王国旗艦の武装が判明! (2/3)

2025.09.23 19:00:03 Tuesday

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海底からよみがえる“火砲の時代”——中世北欧の軍艦を徹底解析

当時の船を描いた歴史的絵画や壁画
当時の船を描いた歴史的絵画や壁画 / イギリスのスナーゲートという町のセント・ダンスタン教会に描かれた、15世紀末頃の巨大な船を示す壁画の写真です。この船は、イングランド王ヘンリー7世の軍艦「リージェント号(Regent)」ではないかと考えられています。 壁画を見ると、船の前と後ろに高くそびえ立つ構造物(城のような塔)があることがわかります。この部分は「フォアキャッス(船首楼)」と「スターンキャッス(船尾楼)」と呼ばれるもので、中世後期の軍艦にはよく見られました。ここには、小さなアーチ型の開口部がたくさん並んでいますが、これは実は「砲門」、つまり大砲を設置して外に向かって撃つための窓なのです。 この絵が描かれた当時、軍艦は徐々に大砲をたくさん載せるようになっていました。大砲は最初、大きな砲弾を撃つというよりも、比較的小さな砲弾を使って敵の船員を攻撃する目的で使われていました。この壁画に描かれた多数の砲門は、その頃すでに船が多くの大砲を搭載し、敵を圧倒する「火力」をもつようになっていたことを示しています。 この壁画は歴史的に重要です。なぜなら、当時の船がどのように武装し、どのような姿で戦闘に備えていたかを視覚的に記録している数少ない貴重な史料だからです。また、この絵によって、グリプスフンデン号のような北欧の軍艦がどのような姿であったかを比較する手がかりにもなります。500年以上前に描かれたこの壁画が、現代の私たちに過去の軍艦のリアルな姿を教えてくれます。/Credit:Late Medieval Shipboard Artillery on a Northern European Carvel: Gribshunden (1495)

調査の結果わかったのは、グリプスフンデン号には15世紀当時としては驚くほど多くの大砲が搭載されていたことです。

このような発見は、水中に眠る考古学者が細かく掘り起こして調査したからこそ可能になりました。

今回の調査では、海底から11基の木製の砲台(砲床)を引き上げました。

砲台とは、大砲を船に固定するための台座のことです。

もともと砲身(砲弾が飛び出す筒)は鉄でできていましたが、500年も海中にあったため腐食して消えてしまいました。

しかし、最新のデジタル技術を使った3次元スキャンにより、残された木の砲台に刻まれた砲身の跡(陰型)から、消えてしまった鉄製の砲身を見事に復元することができました。

その結果、この船には少なくとも50門以上の大砲が積まれていた可能性が明らかになったのです。

また、回収した砲台の形状から、この船の主力の火砲は比較的小さな口径のものであることがわかりました。

具体的に言うと、直径31~47ミリ(平均37ミリ)の球形の砲弾を使っていました。

これは現在のゴルフボールより少し小さいくらいのサイズです。

この砲弾は、表面は鉛で覆われ、中には鉄でできた芯が入った特殊な構造でした。

この小型火砲は「セルパンティン砲」(蛇砲)とも呼ばれ、当時の軍艦ではよく使われていました。

なぜこんなに小さな砲を多く載せたかというと、当時の海戦の戦術が関係しています。

大きな砲で船を破壊するより、小さな砲を多数並べて相手の船員や兵士を攻撃することで船内に混乱を起こし、その隙に自分たちが敵の船に乗り込んで制圧するという方法がとられていたからです。

実際に砲台が集中して見つかったのは、船の中央部分から後ろの部分(船尾)にかけてでした。

なぜか船の前方部分(船首)からは、まだ大砲の痕跡が見つかっていません。

研究者たちは、もしかすると船首の大砲はまだ海底の泥の中に埋まっているのか、それとも沈没直後に誰かが引き上げてしまったのかもしれない、と考えています。

大砲の砲床の部分
大砲の砲床の部分 / 海底から引き揚げられたグリプスフンデン号の木製の砲床を示しています。この砲台はもともと大砲を支えるための重要な部品で、船の上に置かれていました。面白いことに、この砲台は木製であるために、500年以上も海の中にあったにもかかわらず、奇跡的に形が残っていました。一方、本来その上に載せられていた鉄製の砲身は、バルト海の海水によって錆びて消えてしまったのです。しかし、砲身の跡が木の表面にはっきり残っており、この跡(陰型)を最新の3Dスキャン技術で詳しく分析したところ、元々の大砲がどんな形であったかが分かりました。このように、消えてしまった鉄の砲身が残した「影」が、現在の技術によって再び形として蘇ったのです/Credit:Late Medieval Shipboard Artillery on a Northern European Carvel: Gribshunden (1495)

そして、さらに謎めいているのが、船の沈没原因です。

1495年6月、この船が停泊中に大きな爆発が起きたと当時の記録にはありますが、既存の調査では火災の痕跡が見つかりませんでした。

しかし、今回の調査で回収された22発の砲弾のうち、5発に奇妙な変形が見つかりました。

そのうち4発は片面が平らになり、1発は両面が平らになっていました。

研究チームは、この変形した砲弾が船の内部で起きた爆発の衝撃で変形した可能性があると推測しています。

つまり、これらの砲弾は船内の火薬庫付近で爆発の衝撃を受け、木製の壁や床にぶつかって変形したと考えられるのです。

この平らな砲弾は、500年前の謎の爆発事故を解く重要な手がかりになるかもしれません。

この時代に存在した無数の船よりも、派手に爆沈してしまった船のほうが長くその姿を海底に留めているというのは、なんとも皮肉です。

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