650年前の人間とワシが「交差」した証拠
チームは、巣から発掘された人工遺物の一部について、放射性炭素年代測定による年代推定を行いました。
その結果、なんと最も古い靴や羊革の装飾片は「今から約650年前」、すなわち13世紀末から14世紀初頭に作られたものと判明したのです。
現代の巣材も混じっていたため、巣の中にはさまざまな時代の人工遺物が地層のように積み重なっていました。
つまり、1つのワシの巣が「過去から現在にかけてのタイムカプセル」の役割を果たしていたのです。
巣の遺物を分析することで、その時代ごとの「ヒゲワシがどんな動物を捕食していたか(骨の種類)」や「人間がどんな道具や繊維を使っていたか」まで明らかにできました。
さらに巣に残された卵殻を調べることで、過去の環境汚染の推移(農薬や重金属など)も推定できる可能性が指摘されています。
ヒゲワシの巣は、まさに「生物と文化のアーカイブ」として機能していたのです。
今回の研究は、動物の巣が「生態系や人間活動の歴史的記録」としてこれほど貴重であることを初めて明らかにしました。
将来的には、ヒゲワシ以外の鳥や動物の巣でも、同様の「過去を読み解く手がかり」が見つかるかもしれません。
また、絶滅が危惧されるヒゲワシの再導入や保全活動においても、過去の巣の記録が「生息地選びや環境復元のヒント」になると期待されています。