「痛みに値段をつける」と”痛みの評価”精度が高まる
結果として、「痛みに値段をつける」方法は従来の評価法よりも明確に「強い痛み」と「弱い痛み」を区別できると分かりました。
電気刺激でも熱刺激でも、強い痛みを受けた人ほど次回も受け入れるために必要とする金額が高くなり、弱い痛みの人は低くなるという直感的でわかりやすい差が出たのです。
また、鎮痛剤を使った実験でも、「痛みに値段をつける」方法は薬の効果を一貫して捉えました。
従来の評価法では「効くはず」という期待が外れたときに、痛みがより高く評価されることがあります。
しかし金額の選択ではこの心理的なゆらぎの影響が小さく、効果の有無が素直に数値化されていたのです。
そして、少なくとも今回の参加者範囲では、性別や収入などを統制したうえでも「痛みに値段をつける」方法の予測力は維持されました。
加えて、ME1とME2の両方式で有効性が確認され、提示の順序に依存しないことも示されました。
このように、お金という共有可能な物差しを使うことで、個人差に埋もれがちだった痛みの違いが比較しやすく可視化されました。
一方で、研究にはいくつかの限界があります。
実験で扱ったのは短時間の急性の痛みであり、感情や機能障害など多面的な要素を伴う慢性痛に同じ枠組みをどう適用するかはこれからの課題です。
さらに、痛みに値段をつけるという考え方に対する心理的な抵抗感や、臨床現場での運用方法も検討が求められます。
それでも、臨床試験の感度向上や治療効果の比較、個々の患者に合わせた痛み管理の検討など、実務への応用可能性は大きいといえます。
痛みの測定が正確になるほど、治療の選択は合理的になり、患者の生活の質を高める道筋がより具体的になっていくいはずです。
あなたが普段感じている「その痛み」はいったい何円ですか?