「不思議を感じる脳」の正体
調査の結果、無意識と意識の結びつきが強い人ほど、異常体験を多く報告することが明らかになりました。
それも特定の体験に限らず、予知夢、既視感、意味のある偶然(シンクロニシティ)、人の気配を感じる体験など、すべてのカテゴリーで差が見られました。
つまり「不思議な体験をしやすい人」は、世界のあらゆる場面に“つながり”や“意味”を感じ取りやすい傾向を持つことが、統計的に示されたのです。
この関連の強さは数値でも確認されています。
3つの測定(合計約2200人)を通して、TIS(ソート・インパクト・スケール)のスコアが高い人は、低い人に比べて3倍以上の頻度で異常体験を繰り返し報告していました。
参加者の86%が少なくとも1種類の異常体験を何度も経験しており、TISスコアと異常体験の回数のあいだには中〜強い相関(r=.53〜.69)が確認されました。
この関係は、没入性(absorption)や魔術的思考(magical ideation)といった他の心理特性とも重なっていました。
直感を信じる人ほど、偶然の中にも“意味”を感じ取りやすく、無意識の働きが日常の判断や感覚に影響しやすいと考えられます。
パルソン氏は、こうした傾向を「無意識と意識の結びつきが強い人ほど、偶然の出来事の中に“何かのつながり”や“意味”を感じやすい」とまとめています。
興味深いことに、異常体験を多く報告する人は若い世代にやや多い傾向も見られました。
また、精神的に不安定な人が不思議な体験を報告しがちという世間的な印象がよく聞かれますが、今回の研究では精神的不安定さやうつ状態と異常体験との間に直接的なつながりは見られませんでした。
つまり、こうした体験を語ることは病気や異常ではなく、単なる無意識の感じ方に関する個性だと考えられます。
ただ実験方法の解説でも述べたように、この研究が扱った異常体験は、日常の延長で感じられるようなささやかな「不思議な感覚」に限られています。これは、既視感、意味のある偶然、予知夢、人の気配を感じるなどの体験です。
幽霊の目撃や交霊、エイリアンとの接触のような極端なオカルト体験は対象外なので注意しましょう。
この研究の目的は超常現象の検証ではなく、人がどのように世界に意味を感じ取るのかという心の仕組みを理解することなのです。
今回の結果は、霊感体験など「不思議な現象を語る人=錯覚している人」という見方を覆すものです。
今回の研究では、不思議な体験をする人たちは無意識の信号を強く感じやすい性質があり、無意識から生じる「なんとなく」という感覚を、強く後押しされたように受け取る感受性を持っていると述べています。
これが、「霊感」など不思議な感覚の正体なのかもしれません。
不思議を感じる心は錯覚ではなく、人間の無意識の感受性の表れなのです。