43年間にわたるトタテグモの調査
この伝説的な記録が打ち立てられたのは、オーストラリア・西オーストラリア州内陸部のノース・バングラ(North Bungulla)自然保護区です。
1974年、オーストラリアの著名な蜘蛛研究者であるバーバラ・ヨーク・メイン博士(Barbara York Main)は、この保護区でトタテグモ科に属する「Gaius villosus(画像あり:閲覧注意)」の長期調査を開始しました。
トタテグモは地中に深い巣穴を掘り、生涯ほとんど同じ場所で暮らす習性があり、トンネル状の巣の入口に扉をつけることから、この名がつけられています。
当時開始されたメイン博士の調査の方法はとても地道で、調査区画にあるすべての巣穴に金属製のペグを打ち、「1番」から順に番号を付けて管理しました。
その後は半年ごとや毎年、巣穴の状態や巣の主が生きているかを一つずつチェックし続けます。
この種のクモは、成長段階ではオスとメスの区別が難しいため、巣穴を維持している期間や巣穴の変化、脱皮の痕跡などをもとに年齢や性別を推定していました。
オスは成熟すると繁殖のために巣穴を離れ短命ですが、メスは基本的に同じ巣穴で長く生き続けます。
また、トタテグモの巣穴は一度作ると他の個体が再利用することはなく、もし壊れても巣穴を修復して住み続ける習性があります。
そのため、同じ番号の巣穴を追跡し続けることで「その巣の主」がずっと同じ個体であることを確実に記録できるのです。
この長期モニタリングにおける主役は、調査開始の年に「16番」の番号を付けられた巣とそこに住む1匹の小さなクモです。
最初は他のクモたちと変わらない存在でしたが、後に「ナンバー16」という呼び名で親しまれる最長寿クモとなりました。